如月五月の「ちょっと気になる話題、情報を斜め視線から」

ちょっと気になる話題、情報を斜め視線で解説

声優という職業を「絶対に」ススメないベテラン声優の本音

大塚明夫「声優養成所を過信する若者の危うさ」(東洋経済オンライン)

大塚 明夫 : 声優/役者

 

 大量のアニメが制作され、人気作品も増えるなか、声優を目指す若者は多いようだ。こうした傾向に警鐘を鳴らす記事「大塚明夫『声優養成所を過信する若者の危うさ』」が2月24日付けの東洋経済オンラインに掲載された。

 

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 記事を書いた大塚氏は現役声優で、1959年の生まれというから今年62歳となるはずだから大ベテランである。ちなみに大塚氏は2015年に「声優魂」という本を出版していて、声優業界の実態を明らかにしている。

 

 東洋経済オンラインにも過去に5本の記事を投稿していて、参考までに見出しを引用してみると、

              2020.2.16 大塚明夫「声優を夢見る若者が陥りがちな失敗」

              2020.1.25 大塚明夫「声優として生き残れない若者の特徴」

              2020.1.11 大塚明夫「プロ声優と素人を分かつ決定的な差」

              2020.1.  4   声優に憧れる人が知らない「厳しい収入事情」

              2019.12.30 大塚明夫「声優の大多数が仕事にあぶれる理由」

とまあ、見出しを見るだけで「声優」という職業の厳しさが伝わってくる

 

 今回の記事のテーマは「声優養成所」。結論から言えば「養成所に行ったから声優になれるというのは大いなる幻想」ということだ。

 

 その理由として、声優養成所は「基本的なことは一通りできる役者」を育てることが目的で、業界が必要としている「個性」のある声優の育成には関心がないことを挙げている。

 簡単に言い直せば大学受験の予備校と同じで、1対1よりも1対多数でより多くの受講生に教えた方が効率よく稼げるからということだ。実際に大塚氏も記事で「声優学校や養成所というのは非常に儲かる商売」と明かしている。

 

 ではなぜ声優志望者が養成所に通うのかという話になる訳だが、大塚氏は「より安全で確実な道はある」と思いたい方がそれだけ多いからだ、と解説している。

 

 ここで想像できるのは、声優志望者が「調理師」「美容師」のように、専門学校に行けば「資格」(のようなもの)を取れて、仕事にありつける可能性が高いと思い込んでいる可能性だ。現実には「声優」などという資格は存在しない訳だが、専門学校に行ったことで、声優になる近道というか王道を歩んでいると考えているのだろう。

 

 これも個人的な想像だが、おそらくアニメ好きの高校生が登場人物のものまねを披露してみたら、友人から「イケてる」などと囃されて、その気になってしまったという事例もあるだろう。また、その大多数は他にやりたい職業もないし、大学進学にも魅力を感じていないことが、声優養成所へと後押ししている可能性もある。

 

 私が通院している診療所にも「声優」が本業の女性が受付のアルバイトをしているが、「声優だけではとてもたべていけない」と言っていた。ちなみに女性の場合は「アニメの男の子役」や「PCゲームのヒロイン」での需要もあるが、男性声優はそれも少ないので「さらに悲惨」だそうだ。

 2019年12月の記事にもあるが、声優業は「300脚の椅子をつねに1万人以上の人間が奪い合っている状態」だそうだ。実力とコネが重要視される業界で、この競争は熾烈なモノだろう。

 

 私の知り合いの子供(男子高校生)も声優を目指しているそうだが、親は大塚氏の記事を読んで反対しているのだが、本人は自分には才能があると信じて、説得には耳を貸さないらしい。

 では、この「才能」というのが何かと聞けば、「好きなアニメの主人公役の声がそっくりだから」とのこと。この業界に浅学な私でも声優業が、2つや3つの登場人物のマネできるぐらいで食っていくことは無理なことぐらいは分かる。少なくとも10数種以上の個性的な声を自由自在に使いこなせなければ、特に若手には仕事は回ってこないと思う。

 

 もちろん声優養成所出身で活躍している有名声優さん(東山奈央芹澤優など)もいるし、養成所に通うことがまったく意味がない訳ではないだろう。ただ、「仕事にありつけるかどうかはあくまで本人の実力次第」のはずだ。

 

 フランス人の俳優アランドロンの吹き替えで有名だった故野沢那智氏は現役時代「声優になりたい人はまずは役者を目指すべき」とラジオの深夜番組で言っていた。その背景として「舞台は演技でもカバーできるが、声優は声だけですべてを表現する難しさ」を指摘していた。もっとも現在の声優に求められるのは、加えて歌のうまさやファンとの交流なのかもしれないが。

 

 大塚氏は「声優界もいっそ、演歌歌手や落語家の世界のように徒弟制度を取り入れたほうがいい」とも述べているが、現実には弟子入りを申し込んでくる若手声優はまずいないそうだ。

 

 記事では最後に「声優という仕事自体を私は絶対おすすめしません」と断じている。ただ、一般論としては若者がやりたい仕事を自分で見つけて目指すのは決して悪いことではないし、むしろその積極性は評価すべきだろう。

 ただし、目標とする業界(この場合声優)の実情を詳しく調べて、先輩たちがどのように仕事を請け負い、収入はどの程度なのかなどを知っておくことは不可欠だろう。これは声優業界に限らない話ではあるが。

 親御さんも、本人の「声優になりたい」という意志を頭から否定するのではなく、冷静に業界の実情を知らしめるように努力すべきだとは思う。