如月五月の「ちょっと気になる話題、情報を斜め視線から」

ちょっと気になる話題、情報を斜め視線で解説

「職業としての上機嫌」は時代の要請、「不機嫌」にはカラダで対応

 

不機嫌は罪である

2018年5月10日

 現代では「職業としての上機嫌」が求められている。

 一言でいえば、これがこの本で筆者の主張したい内容である。

 第1章で、現代社会における「不機嫌」の実態を解説、かつては「徒弟性」「家父長制」という不機嫌に
よる権力構造が社会を回していたが、今はパワハラなど各種ハラスメントが問題視され、「不機嫌に」にはも
はや(益となる)力は何もない、としている。

 第2章では、SNSに代表されるネット社会によって、「不機嫌」が24時間、ものすごいスピードで拡散、
無意識のうちに自分だけの正義感による「魔女狩り」が横行している。この悪影響を回避するには「SNS
断ち」が有効、と論じている。

 要約すると、現代では「不機嫌」の力が強大化しており、誰もがその影響を免れないのだが、逆にその分
だけ「上機嫌」になる必要性や価値が高まっている、ということだろう。

 確かに、職場や生活など環境のストレスに囲まれて何も考えないでいると、自然に不機嫌になっていると
いうのは自覚できる面もある。無意識に「不機嫌オーラ」を周囲に放っている可能性は高い。不機嫌はそれ
自体「罪」なのである。

 その意味で第3章にある、初心者は「おだやかな上機嫌」を目指すべきというのは、現実的な対応策だと
思う。具体的には「鼻から3秒吸って、2秒お腹に溜めて、15秒(10秒でも可)で口から吐くという深呼吸」
がその手法のひとつなのだが、これが実際にやってみると結構落ち着くのである。深呼吸で心の落ち着きを取
り戻すというのは「特段珍しい」手法ではないが、このように細かく説明してくれるのはありがたい。

 不機嫌というココロの問題を「深呼吸」や「身体を温める」といったカラダの動きで解決するのは、意外な
盲点だった。さすがは「身体論」も専門とする先生の考察である。

 第4章以降も、上機嫌への対応策として「コーチング」「音楽」「映画」「会話力」などの効用が具体例を
挙げて紹介されていく。

 このなかで参考になったのは、著者の学生時代の経歴。当時「筋金入りの不機嫌人間」で自分だけの精神世
界にのめり込んでいたが、たまたま運動不足の解消目的で入ったテニスサークルで、「自分の勝利のためのテ
ニス」から「人にテニスを教えるコーチ」という立場に回ったことで価値観が変わり、人生が大きく転回した
という。

 結果として、筆者はコミュニケーションという技術を習得し、その専門家となっているわけだが、当時テニ
スサークルで先輩からコーチ役を要請され、それを(意外にも)受け入れることがなければ、筆者の現在の立
場も実績もなかったのではないかと思う。

 筆者の述べる、「不機嫌」の解消、「上機嫌」の維持はとても重要ではあるが、人の感情・機嫌には当然な
がらいつも「波」がある。対応策を講じるには「タイミング」や「きっかけ」も大きな要因だということを補
足したい。

 もっとも著者は「自分の著作のレビューは見ない」主義らしいので、このメッセージは届かないとは思うが。