如月五月の「ちょっと気になる話題、情報を斜め視線から」

ちょっと気になる話題、情報を斜め視線で解説

「未来の年表」のビジネス版。分かりやすい発想と展開が面白い

 

未来の稼ぎ方 ビジネス年表2019-2038

2018年10月4日

 昨年話題となった「未来の年表」のビジネス版というのが一読した感想だった。

 本書の特徴は、各章の構造がはっきりしていること。具体的には、2019年から2038年までの20年間を一年
ごとにテーマ別に章立てしているのだが、各章の冒頭にあるタイトルに合わせて「政治」「経済」「社会」
「技術」の4方向からの簡単な見通しを掲載、続いて本文である「変化の特徴」に入る。そして最後に「稼ぎ
方」が来て、ビジネスに展開するためのヒントが示される。

 著者は各章にある業種やテーマが「必ずしもその年に書かれる必然性や客観性はない」と謙遜しているが、
特に無理な設定は見当たらず、それなりに説明のつく事象をうまく取り上げていると感じた。ただ、最後の
2038年「世界中で教祖ビジネスが大流行する」は予想外の内容だったが。

 個人的に参考になったのは2023年の「農業」。政府はこの年までに農業所得を倍増させるという農政改革
「6次産業化」を目指しているそうで、6というのは一次、二次、三次の各産業を掛け合わせた数字で、「
農工商」の連携を図るというのものだ。

 これを受けて、農家は作物のWebやSNSを使った広告宣伝や、道の駅、スーパーへの直販などを推進して
いる。著者はこの取り組みを評価はするものの、「小手先の対応で、コンサルや広告代理店を設けさせてい
るだけ」と苦言を呈している。

 私の身近にも一次産業に取り組んでいる同世代の人がいるが、地方自治体の村おこし責任者に取り入って、
使いまわした資料でプレゼンし、お金を貰ったらあとは知らぬ存ぜぬ、という輩は少なくないらしい。

 話が逸れたが、著者はコメを例に出し、国内を見れば加工食品メーカーが輸入に頼っている分は、ニーズに
合わせた商品改良で売り込みをかけるべきだし、世界を見れば、中国やインドネシアではコメの消費量が生産
量を上回っており、マーケットとして有望だとしている。「安全性」や「有機」といった農業技術も輸出でき
る可能性がある。

 また、スマート農業と言われるIT技術を使って、農業に関するデータが蓄積されれば、「収穫高保障の保険
商品」が開発されるほか、これに関連した農作物の先物取引の可能性まで言及している。商品先物と言えば
「赤いダイヤ」と呼ばれた小豆を筆頭に「投機」、悪く言えば「ギャンブル」の時代が続いたが、金融の分
野にまともな農作物関連の商品が流通するようになれば、農業に対する社会的認識も変わってくるのではない
だろうか。

 以上、ここでは「農業」を引き合いに出したが、本書に掲載されているテーマは「コンビニ」「自動運転」
に始まり、「アフリカ」「若者」「女性」など多岐に渡る。どのテーマも客観的なデータ・統計を基に、筆者
が独自の発想で将来の展開を予想しているのが面白い。またそれらが机上の空論とは感じられず、実現可能性
が高そうに感じることも評価できる。

 また、ヒントとは言え、ビジネスとして「稼ぎ方」まで各章に記載しているのは、筆者がコンサルタントし
てのこれまでの実績と実力を「具体的にアピールしておきたい」というプライドもあるのだろう。

 ちなみに著者は「中小企業診断士」などコンサル系を含めて、資格は何も持っていないそうだ。経歴を見る
と電機、自動車メーカーで原価企画、調達・購買、資材部門を担当しており、米国MBAなど見かけの経歴で
はなく、現場での経験を生かした「製造業特化型」のコンサルタントと言えるだろう。

 先述した「村おこしで食い物にされる自治体」も、コンサルの知名度や経歴などでなく、実際に手掛けた案
件とその後の継続的な実績を採用の基準すれば、税金の無駄遣いをしないで済むと思うのだが。

 ノウハウや人脈の乏しい地方自治体職員にそれを望むのは酷というものなのだろうか。