如月五月の「ちょっと気になる話題、情報を斜め視線から」

ちょっと気になる話題、情報を斜め視線で解説

中年世代に「自立」への決断を迫る。選択肢のアドバイスは具体的

 

定年まで待つな! 一生稼げる逆転のキャリア戦略

2018年9月20日

 最近元気がないと言われる中年世代に対して、「いまの仕事だけに執着せず、新たな可能性に賭けてみるべ
きだ」と提言する本である。

 第一章で、高齢化社会の進展による社会保障費の増大で「老後に潤沢な資産がないとリアルに野垂れ死ぬ」
と警告、70代まで働いておカネを稼ぐことを勧めている。

 この提案自体は現実的ではあるが、巷でよく話題になる話で特段新しい訳ではない。ただ、次章以降のアド
バイスが「具体的」なのが本書の特徴だ。

 第二章では、転職のためのMBAやいわゆる司法書士など「士」業などの資格取得は無意味と断じ、今の会社
よりも「小規模」「地方」の中小企業に注目し、仕事をダウングレードすれば受け入れ先の起業から後継者や
番頭として採用される可能性は高い、という。

 この指摘は、最近評判になった書籍「サラリーマンは300万円で小さな会社を買いなさい」で紹介されてい
る内容に近い部分はあるが、著者はより具体的に「温泉旅館」「造り酒屋」「商品力のある食品」などお薦め
の業種や会社名を紹介している。

 また職住環境を考えると、都市インフラが整備された仙台、福岡が無難で、東京郊外であれば熱海、奥多摩
も選択肢に入るそうだ。確かに奥多摩には造り酒屋もあるし、不動産は東京とは思えないほど安い。周辺も含
て休日は結構観光客、中高年ハイカーなどで賑わう。ビジネス環境としては悪くないかもしれない。

 第三章のテーマは「海外」。となるとまず語学力に悩む人が多いが、日本人を顧客ターゲットにした現地法
人では「語学力不問」という会社も少なくないらしい。

 具体的には、日本では価格競争に疲弊している印刷会社などで、競争力のある中国や東南アジアの企業は日
本市場攻略を目指しているが、パイプやノウハウが足りないらしく、日本の事情に通じた印刷のプロは高い評
価を受けるらしい。
 
 第四章は「趣味」。もっとも多くの人が考えているように趣味で稼ぐのは容易ではない。著者が一押しなの
は「盆栽」で、20年以上かけて育てると100万円単位で売れることもあるそうで、家庭菜園の「ミニトマト」
や「ミント」よりも絶対にいいらしい。

 他にも、メダカや昆虫などの交配による「育種」、プラモデル制作なども候補に挙げているが、こちらは才
能が必要だったり、ライバルが多く高度な技術力が必要になるなど敷居は高そうだ。

 最後に、著者が本書で訴えたい内容の要点を紹介すると、それは「旧来の価値観や固定概念にとらわれて、
自分を不幸にしていないか」(P176)という問いだ。

 ここでも具体的に「持ち家」「高学歴」「大企業志向」などの既存概念を否定している。これは間違っては
いないだろうが、この3大要素を人生の拠り所にしてきた多くの中年にとって、「ハイ、そうですね」と手放
すのは容易ではない。

 本書を読んだ読者の対応は、「これを契機に人生の転換を図ろう」と動き出すか、「そうはいっても色々し
がらみもあるしなぁ」と踏みとどまるかのどちらかだろう。まだ保守的な考えが主流の中年にとっては後者が
大多数ではあると思う。

 私自身、実際に現時点で転職活動を始める気構えはないが、近い将来日本社会の雇用等の「風景」が大きく
様変わりすることは間違いない。この現実に対応するための具体的なアドバイスが多く盛り込まれた本書は、
事前に「自分なりの人生を再考し、その方策を検討・準備する」という意味で役に立つと感じた。