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読む価値があるのは全182ページ中、第三章の36ページ

世界が変わる「視点」の見つけ方 未踏領域のデザイン戦略

佐藤 可士和

 

 何とも厳しい評価のタイトルだが、読後の感想はそのままである。
 
 当然ながら読み手の価値観は様々なので異論はあろうが、なぜ私がそう感じたかと言えば、第二章までの143ページ(全体の78%)は慶應義塾大学SFCでの授業、つまり本書の副題でもある「未踏領域のデザイン戦略」の解説だからだ。


 具体的には、授業の概要と進め方、学生の成果物、感想文、Q&A、同大学の准教授オオニシタクヤ氏との対談が主たる内容だ。

 この内容自体に意味がないとは言わないが、本書のタイトル「世界が変わる『視点』の見つけ方」から普通の人が想像するイメージとは異なるだろう。

 

 慶大SFCを目指す学生には勉強になるかもしれないが、働き盛りのビジネスマンにとっては仕事に直接役に立つとは考えにくい。もっとも学生の立場から学ぶ「デザイン戦略」の考え方は、人と仕事内容次第で参考になる側面はあるだろうが。

 

 以上の観点を逆に捉えると、第三章の36ページに本書のエッセンスは凝縮されているとも言える。

 

 メインテーマであるデザイン戦略について著者の言いたいことを集約すると、①問題解決のテーマである「課題」を決めて、②考え方の方向性である「コンセプト」を明確にし、③課題を解決する方策「ソリューション」を考える、である。

 

 具体例として”なるほど”と感じたのは、ビジネスの世界では③のソリューションから入ってしまうケースが多いということ。ポスターを作るためにデザインを発注する、有名タレントを供してCMを作れば消費者にアピールできる、などだ。

 

 言われてみれば、「結果」すなわち「アウトプット」ありきで、物事が進んでいく仕事は珍しくないという感覚は確かにある。
 ビジネスの世界は、売り上げや利益など「結果」が最優先される傾向が強いだけに、仕方がない部分はあるのだが、著者はこれでは「問題の本質」を捉えることができないと指摘する。
 
 実際に著者は、ライアントから「ロゴマークの相談や刷新」を依頼されたが、提案したのは「空間構築」だったり、「ロゴは変えないという結論」だったこともあったそうだ。

 

 確かに、「問題の本質」を再確認するというのは重要なことではあるのだが、ビジネスの現場では、上司や社内の理解を得やすいがためにコストパフォーマンス(あくまで見かけ上の)が優先され、「頭では非合理的だとわかっているけど結果優先を止められない」というのが実情ではないだろうか。

 

 この対策としては、会社のトップを含む経営陣を筆頭に全社的な意識改革が必要だと思う。権限と責任の所在という観点からも、現場の意思と判断だけでは対応できないはずだ。

 

 一見遠回りに見ても中長期的な視点で考えれば、問題の本質を解明することが、結果として最善策となるということへの会社全体の理解が、デザイン戦略を進める上では不可欠だと言える。

 

 この点からも、本書はデザイン戦略の現場だけでなく、マネジメント層も読んだ方がいいのではないだろうか。
 もっとも彼らは何かと多忙だとは思うので、実際に目を通すのは先述したように第三章の36ページ分だけで十分だとは思うが。