如月五月の「ちょっと気になる話題、情報を斜め視線から」

ちょっと気になる話題、情報を斜め視線で解説

「医療」目的で訪日する中国人富裕層を逃す手はない

中国人の「医療ツーリズム」熱が高まるわけ(東洋経済オンライン)

若泉 もえな : 東洋経済 記者

 

    現在、日本を訪れる外国人環境客の数は増加する一方だが、なかでも増えているのが「中国人」だ。この中国人を含む観光客の主目的は当然ながら「観光」なのだろうが、こうした中で「医療」を目的に訪日する中国人が増えているとする記事「中国人の『医療ツーリズム』熱が高まるわけ」が9月3日付けの東洋経済オンラインに掲載された。
 
 記事は、血液の浄化や美肌効果などを目的とする「アンチエイジング」が目的で来日した50代の中国人女性の発言が紹介から始まる。
 
 確かに記事にあるように、外務省の統計では中国人向けの医療滞在ビザの発給件数は2015年から2018年にかけて1.6倍に増えている。
 これだけ読むと、医療を目的にした訪日だけが急増しているように受け取れるが、これには追加説明が必要だろう。
 
 日本政府観光局の訪日外客数(年表)によれば、中国人の訪日人数は2015年の499万人から、2018年に838万人まで増えており、その増加率は1.67倍である。つまり、医療目的の中国人が増えているのは事実だが、そのペース(記事では1.6倍)は訪日人数の伸びと変わらない。医療を目的にした人だけが急増したわけではないのである。
 
 統計を見ればすぐにわかることだが、一般人はそこまでデータの確認をしないだろうから、この記事の内容では誤解を招く可能性があることを指摘しておく。
 
 ただ、その後に続く「日本の医療滞在ビザを取得する外国人の中でも中国人の割合は高く、全体の8割を占める」という事実の方が、記事の意図をより反映した内容であることは間違いない。
 
 個人的には、中国人観光客というと、最初は「洗浄便座」「紙おむつ」などの爆買いに始まって、最近では個人旅行のリピーターが増えて、中国人観光客が知らない、行かないエリアを探して旅行する、という流れになってきたのは、知っていたが、高額の「医療」目的で来日するという旅行者が増えているというのは、意外だった。
 
 これは個人的な偏った見方なのだろうが、訪日外国人の医療というと、日本の健康保険が使えないうえ、旅行保険に加入しないで訪日する人も多いので、病院に行って治療してもらっても治療代を踏み倒す、というイメージが強かったので、逆の意味で興味深い内容だった。
 
 確かに「観光」目的の外国人は、京都や飛騨高山などではキャパシティを超えて訪れるため、地元民の生活環境を乱す「観光公害」とまで呼ばれるようになっており、世間の風向きは観光客の「誘致」から「管理」へと変わりつつある。
 この辺りの事情は「観光亡国論 (中公新書ラクレ)」に詳しく書かれているので、機会があれば読んでみてほしい。
 
 以上を踏まえると「観光」から「医療」へのシフトを狙うのは正しい選択肢のひとつかもしれない。
 中国人観光客は、東洋経済オンラインの過去の記事「中国人が山ほど金使う「日本観光」の残念な実情」にもあったが、富裕層は「1週間程度の滞在で、1人当たりの消費支出は平均200万~300万円にも達する」そうで、医療の質とサービスの高い日本のアンチエイジングにおカネを使ってもらえるなら、こんなありがたいことはない。
 
 しかも記事にあるように、現在は大都市圏の治療機関が主流だが、治療目的ならば「地方」の方が、コスト的にも有利だし、活性化にもつながる。中国人富裕層は「上海」など過密な都市部に住んでいるは可能性が高いはずなので「日本の田舎の良さ」をアピールすれば、結構人気は出るのではないか。
 
 問題は、治療目的で訪日する中国人を案内する「医療コーディネーター」の育成、管理だろう。大人数で大騒ぎして迷惑をかける一部の観光客と違って、医療目的の本人が問題を起こすことはないだろうが、治療に関する知識に乏しい在日中国人がコーディネーターとして仕事を受けて、これまた外国人の扱いに不慣れな医療施設と組んで、治療ミスなどを犯せば、一気に悪評が広まり、良心的な対応をしている治療機関まで影響を受けかねない。
 
 記事でも、JTBの社内で医療コーディネーター事業を展開する責任者のコメントとして「政府としても悪質な医療コーディネーターを取り締まるための枠組みを作る必要があるのではないか」との発言を紹介しているように、問題が表面化する前に対策を打つ必要はあるはずだ。
 
 日本の医療サービスを評価して、専門のビザまで取得して来日してくれる中国人富裕層という「優良顧客」を逃す手はない。