脱サラ起業よりも「会社を買う」方がいい理由 (プレジデントオンライン)
田之上 信 ジャーナリスト
老後の収入確保の手段として「会社を買う」という方法を解説する記事「脱サラ起業よりも『会社を買う』方がいい理由」が11月9日のプレジデントオンラインに掲載された。
この記事はよく読むと、昨年4月に出版された「サラリーマンは300万円で小さな会社を買いなさい」という本の続編となる「会計版」の紹介でもあるのだが、内容は記事」というよりも「インタビュー」に近い。
要約すると、「日本には後継者を求めている中小企業が100万社あり、黒字の会社も多い。会社を買って役員報酬を得れば、老後の資金を確保できる。ただ会社を買うにはリスクがある。経営状態の入念な調査は必要だ」ということになる。
前書について、私は発売とほぼ同時にAmazonで一番目となるレビュー「中小企業を買い取り経営するという生き方、人生後半の選択肢になりうるか」を書き、★4つの評価を付けた。他のレビューも総じて同書を前向きに評価するレビューが大半だったように思う。
100件以上の「役に立った」投票を得たこともあって、発売から数カ月はトップレビューを維持していた。本記事を見て今回改めてレビューを見たのだが、驚いたことにトップレビュー8本のうち7本までが★2以下の評価なのである。
レビューのタイトルは「スモールM&Aは売手市場、サラリーマンでは買えない」「サラリーマンの0.1%に入る人向けの本」「あまり現実性はない…」など惨憺たる評価なのだ。
これはどういうことなのか自問自答してみたのだが、思うに前書で紹介した「会社を買って老後資金を確保する」というコンセプトが目新しかったので注目を集めて結構売れたが、M&A市場を知る人たちから「現実」をもっと認識するべきだというレビューを書いたことが影響したと思われる。
ちなみに私のレビューは「中小企業を買い取り経営するという生き方、人生後半の選択肢になりうるか」と言うタイトルで、内容は「会社買収というのは想像していたよりもハードルは低いようだが、成功する可能性のハードルは高そう」という趣旨だった。
具体的には、M&Aが成功すればいいが、自分の特性にあった会社が、手ごろな値段で、適当な時期に見つかるかは運任せの部分も大きいし、運悪く「実は手に負えない会社だった」というリスクも十分にある、とレビューでは書いた。
今回出版された「会計版」では、リスクを回避するための「危ない会社の見抜き方」などを解説しているようだが、この本一冊読んだところで、効果は限定的だろう。自分に合った会社が見つかる可能性がそれほど高まるとは思えない。魑魅魍魎が跋扈する企業M&Aの世界はそれほど甘くないだろう。
前作では「中小企業を買うことのメリット」を強調していたが、今回の新作を紹介する記事では、レビューでの批判を恐れてか「予防線」をいくつも張っている。
具体的には、「私が提唱しているのは、生き方です。会社を買うというのは目的ではなく」とか、「年収が下がったとしても、ものすごく面白くてやりがいがあればそれは意味があります」のほか、「買った会社が倒産したとしても、株主が責任を負うのは会社を買った株式の金額だけ」といった失敗へした場合への「言い訳」が列記されているのだ。
今回出版された「会計版」には、Amazonで現時点で50個のレビューが付いている。内訳は★5つが73%、★4つが22%で、この2つで95%を占めている。これは前作が発売された直後のレビューの傾向に近い。
私自身はこの新作を読んでいないので、レビューは書いていないし、書く予定もない。
その理由は、「会計版」というタイトルから内容がほぼ想像できるうえ、内容の方向性が前作を踏襲していて、目新しさが感じされないこと。
加えて、本記事を読んで、著者がやや責任を回避する「逃げ腰」を姿勢を見せていることも気になる。
結論として言いたいのは「経営の素人がおカネで買った中小企業を経営するのは想像以上にリスクと困難が付きまとうはず」ということだ。