如月五月の「ちょっと気になる話題、情報を斜め視線から」

ちょっと気になる話題、情報を斜め視線で解説

ネットニュースと新聞は役割分担すべき、目的の違いは明白

ネットがあれば新聞不要と思う人に欠けた視点(東洋経済オンライン)

池上 彰 : ジャーナリスト

  

 新聞の購読者数の減少と、それとは対照的にネット系のニュースの隆盛が著しい。

 こうしたなか、あえて新聞の存在意義を説く記事「ネットがあれば新聞不要と思う人に欠けた視点」が11月8日付けの東洋経済オンラインに掲載された。

 

 記事では新聞の存在意義のひとつに「取材」があると指摘。「新聞社の記者が取材した記事がなくなればネットに記事が転載されることはない」としている。

 

 また、新聞離れで先行しているアメリカでは、地方紙の廃刊によって地元の選挙を報道する手段がなくなり投票率が激減した、という事例を紹介して新聞メディアの減少による悪影響とその存在意義を解説している。

 

 下の表は新聞協会が発表しているデータだが、左端の発行部数合計は2000年の5370万部から2018年には3990万部と記事にあるように約26%減少、4000万部を割り込んでいる。

 この間、世帯数は4741万から5661万へと19%増加しているので、潜在的な需要増を取り込めていないことを考慮すると、新聞へのニーズは数値以上に激減していると見ていいだろう

 

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新聞協会経営業務部調べ (単位=部)

  記事では、上記2つの事情に加え、アメリカの「ウォーターゲート事件」や日本の「リクルート事件」を取り上げ、「新聞はつねに国家や権力者を監視し、世の中を動かしてきました」と新聞の存在意義を説いている。

 

 記事を読んだ感想を言えば、「間違ってはいないが、新聞の部数減少の主たる原因はネット社会の普及に対応した紙面構成を怠った新聞社側にある」と思っている。

 

 筆者の池上氏は「新聞社は多くの記者を抱え、直接情報源に取材して記事にします。この第一報がなければ、ネットに記事が転載されることもありません」としているが、この認識はやや時代遅れと言える。

 

 例を挙げれば、日本経済新聞はネットの電子版に速報記事を中心に新聞よりも優先的に配信、その他の記事も新聞より早く報じている。特に有料会員向けにはその傾向が顕著だ。

 

 そもそも、朝夕の二回しか読者に伝わらない新聞に対して、24時間ニュース配信が可能な電子メディアでは、速報性で勝負にならない。

 

 個人的な意見を述べれば、速報性のある記事や一般的なニュース、発表モノなどはネットで配信した方が価値は大きいし、読者のニーズにも合っている。

 

 新聞は、池上氏が言うように「大量の取材記者」を抱えているのだから、社会的な意味の大きいスクープ記事の発掘も重要ではあるが、ネットメディアで先行して配信した記事を、オリジナルな分析でその背景を解説したり、過去の経緯や今後の展開などを説明するといった、今まで以上に「読み甲斐のある記事」に方向転換すべきだと思う。

 

 調査報道では、週刊誌など雑誌の方が時間をかけて取材、調査できるという側面はあるが、週1回の雑誌と1日朝夕2回の新聞では、まだ新聞の方が優位性はある。

 

 実際に新聞社のサイトを見ると、今年に入ってから記事の大半が有料会員でないと読めない傾向が強まっているように感じる。

 当たり障りのない記事はタダで読めるが、「価値がある(と新聞社が判断した)記事は有料で」という編集もしくは営業サイドの方針は理解できないでもないが、私のような無料会員にとっては、決して安くはない月額料金を払って新聞をネットで見ようとは思わない(産経新聞は月額500円と安いが)。

 むしろ「金を払わない人はサイトを見るな」と宣言されているようで不快感すら覚える(特にM紙)。

 

 現実にネット読者向け新聞の有料版で成功しているのは、有料会員が60万人を超えている(2018年6月時点)日本経済新聞ぐらいだろう。

 日経は「会社情報」や「データバンク」など保有する経済や企業データの情報量が他社に比べて半端ではないため、ビジネスマンや企業向けを中心としたこれらのデータを生かしたメディア戦略が奏功したとも言える。

 

 その他の新聞社もこの辺りの事情は当然ながら把握しているだろうが、宅配制度を維持するための販売店対策など、解決すべき課題も多く、ネット新聞に移行するにはまだまだ時間はかかるだろう(この点でも他の新聞販売店の軒先を借りて宅配している日経は有利)。

 

 であれば、紙面を「読みたくなるような内容に変化させていく」しか解決策はないのではないか。

 ネットニュースのような速報性はないが、週刊誌よりは早く、しかも読む価値のある「解説記事」を中心に編集すれば、まだ紙の「新聞」が生き残る道はあると思う。