大胆過ぎる移転計画、退職者続出か
人材派遣会社大手パソナが1日「パソナグループ 本部機能を分散、淡路島に移転開始」とするニュースリリースを発表した。対象はグループ全体の本部機能社員 約1800名のうち約1200名で、2023年度末までに実現するという。
資料によれば、「真に豊かな生き方・働き方の実現」と「BCP(事業継続計画)対策の一環」が目的とのことだが、おそらく多くの人は「なぜ淡路島に1200人も?」と感じたのではないだろうか。昨今コロナ禍を受けた経営判断だとしても、東京千代田区から兵庫県の淡路島というのは唐突感が否めない。プロフィールによれば創業者で現在グループ代表の南部靖之氏が神戸市出身ということが影響しているのかもしれないが。
とは言え兵庫県の「淡路島」である。人口は約13万人なので、この島に人口比で1%近い勤労者が増えることになる。家族3人で移住するとなれば3%だ。島の住宅や商業施設などの経済活動への影響は避けられないだろう。もっとも、本州と四国を結ぶ神戸淡路鳴門自動車道が淡路島を縦断しているので、島外から自動車通勤を選択する人も多そうだが。
もうひとつ気になるのは「地震」。BCP対策とのことだが、1995年には6000人以上の犠牲者を出した阪神・淡路大震災が起きており、淡路島には野島断層という活断層が出現している。逆の見方をすれば当面は大地震の可能性は低いのかもしれないが、何故あえて選択したのだろうか。
一方、個人的に気になるのはこの本部機能移転が、実際は人件費のコスト削減を狙ったものではないかという懸念だ。
同社の2020年5月期連結決算を見ると、売上高は前期比0.6%の微減、純利益に至っては同69.9%も減少している。売り上げの伸び悩みと利益率の低下は同社のIR資料からも明らかだ(下図)。
しかも、今春以降の新型コロナによる社員の削減は観光、宿泊、飲食などの業界を中心に加速する一方で、9月1日には共同通信社が「コロナ解雇、8月末で5万人超に」と題するニュースを配信、記事では「非正規労働者を中心に厳しい雇用状況が続く」としている。毎月1万人規模で増えているので、このペースだと「コロナ解雇」は年末には10万人を突破している可能性もある。
この非正規雇用の定義だが、ウィキペディアによれば「パートタイマー」、「アルバイト」、「契約社員」(期間社員)、「臨時職員」、「派遣社員」となっており、パソナに登録している「派遣社員」も影響を受けるのは間違いない。しかも先のIR資料によれば、契約社員数は2019年5月末の1462人から2020年には9931人へと約5.8倍に急増している。この状況下で契約社員が過剰なのは間違いないだろう。
以上から見て、コスト削減のために契約社員はもとより本部の正社員までリストラを対象に検討せざるを得ない状況にあったのは確かなはずで、その流れのなかで社長の意向もあって移転先に「淡路島」が選択されたのではないだろうか。
これは私見だが、同社の単独の従業員の平均年齢は40歳。対象となった1200人には子供を含む妻帯者が少ないはずだ。また住宅を購入していたり、子供の学校、親の介護などで東京勤務を変えられない人もいるだろう。こうなると一定数は「家庭の事情」で退社・転職を余儀なくされることになるはずだ。
会社側は、こうした社員側の事情による本部社員の「自然減」を想定していると考えざるを得ない。しかも移転の期限は2024年5月でまだ4年近い時間がある。リモートワークの進展などを考慮すれば、実際に2024年に淡路島に職場が移転している人は半分程度の数百人に留まる可能性が高いのではないだろうか。
パソナの本業は人材派遣。これは見方を変えれば契約社員のリモートワークの一形態と言えなくもない。このスタイルを正社員にも適用する流れのなかで、「淡路島」、「東京に残る本部機能」、「その他リモートワーク」そして「退職」という選択肢を用意する真意は、急速に悪化が予想される業績への対応策の一環と思えてならない。