如月五月の「ちょっと気になる話題、情報を斜め視線から」

ちょっと気になる話題、情報を斜め視線で解説

「医師」の言葉が理解できないのは「患者」の責任なのか

医師との会話がどうしても「ズレまくる」理由(東洋経済オンライン)

平松 類 : 医師/医学博士

 

 医師とうまく意思疎通できない――この状況について現役医師の立場から解説する記事「医師との会話がどうしても『ズレまくる』理由」が10月21日付けの東洋経済オンラインに掲載された。

 

 執筆した医師は、「医者が発する言葉」と「患者さんが受け取る言葉」について、解釈の違いを実感している、ことが問題の要因だとしている。

 

 記事では「治療」という言葉ひとつとっても、肺炎のように薬で「完治」するのと、高血圧のように「症状が悪化しない」のも治療に含めるという医者の立場を紹介、「治療」に対する捉え方の違いが存在すると指摘している。

 

 その他にも、「正常値」「最新治療」「合併症」などについても触れているが、内容を読んだ感想としては、立場上仕方がない面があるにしても、「医師と言う上から目線の解説」だった。

 

 例えば「合併症」。記事では、「しっかり縫っても、不十分であることが10%(術式による)は起こるものなのです」と解説している。

 普通の患者の捉え方は、手術の失敗に起因するのだから医師の責任ではないか、だと思うのだが、執筆した医師は「(合併症とは)ミスとは明らかに関係ない流れで起きた悪い状態を指します」としている。

 

 続けて、「合併症だから問題ないし、医者は何もしなくていい」と言いたいのではありません。言い訳しているのではなく、そもそも意味が違うということです、と書いているが、これは一見医師の側にも「課題」があるように見えて、実際は「責任」を回避しているようにしか見えない

 

 医師と患者で「治療用語」に対する「意味」が違うのであれば、その誤解を解消する努力は一義的に「医師」の側にあるはずだ。

 

 その理由としてまず、医師と言う専門家の使う専門用語を、そのままの意味で「素人」の患者に使って、理解しない方にも問題があるというのは「世間一般の常識」とは異なる。

 

 法律の世界の弁護士も、教育に従事する教師も、自分たちの世界の「専門用語」を相手に理解してもらえるように努力するのが当たり前である。

 

 加えて言えば、医師と患者は例えとしては言葉は悪いかもしれないが、サービスの「売り手」と「買い手」という関係にある。診療代金を支払っているのだから当たり前である。常識的には「売り手が買い手に配慮する」べきだろう。

 

 対価を受け取っておいて、患者が納得できない場合、「説明した内容を理解しない患者に責任がある」という理屈がまかり通るのは、医療業界ぐらいではないだろうか

 

 確かに患者側にも、自分の症状への知識習得を怠って、言われるがままに治療や投薬を受け入れるのはどうかとも思うが、患者の高齢化が今後一段と進む中で、体力、判断力の低下した高齢者に「自分のことは自分で勉強してくれ」と言うのは、あまりに酷ではないだろうか。

 

 文末には、医学の世界は「科学的に議論しやすいように用語を作っている」ので「一般に理解しやすいように用語を作っていない」からなのです。と書かれている。

 

 この言葉からは、「ならば一般人にも理解できるような仕組みを作ろう」という患者サイドに立った意図は感じられない

 医療業界の「問題提起」という点では意味があるが、その先にあるべき「ではどうすべきか」まで触れてほしかった。