如月五月の「ちょっと気になる話題、情報を斜め視線から」

ちょっと気になる話題、情報を斜め視線で解説

改めて問われる「社内失業者」の処遇

日本で「社内失業者」が増え続けている根本理由(東洋経済オンライン)

鳥潟 幸志 : グロービス・デジタル・プラットフォーム プロダクトリーダ

 

 「社内失業者」と呼ばれる正社員でありながら仕事がない状態の労働者の「傾向と対策」について解説する記事「日本で『社内失業者』が増え続けている根本理由」が9月10日付けの東洋経済オンラインに掲載された。

 

 かつては「窓際族」と呼ばれ、「部付部長」とか「シニア何たら」といった肩書で、部下も仕事もない名目だけの管理職は昔から存在したが、記事によれば2025年には500万人に達するそうで、改めてその存在と対策が重要になっているようだ。

 

 世の中の状況を見てみると、確かに「社内失業者」は増えている感はあるこの理由として希望者には65歳までの雇用が義務付けられた結果、多くの定年退職者が再雇用制度を利用して、同じ会社に留まっているものの、「役職」「部下」「権限」ははく奪されて、与えられた仕事へのモチベーションを喪失しているパターンが多いように思える。50代半ばで大半の社員がなる「役職定年」もこれに含まれる。

 

 記事のキモは後半部分の2つで、一つ目は「会社側」が、終身雇用制度の崩壊を前提に社員に自己啓発を促す意図から「異動によるキャリア発展の機会を作り、キャリアパスを考える機会を与えること」というもの。

 二つ目は、「個人の側」が、自分の人生を考えるうえで「市場環境や自分の相対的な能力を把握すること」だ。また、会社以外のコミュニティへの参加も推奨している。

 

 また、「営業、企画、オペレーション、どんな職種に就いていようと通用する汎用的なビジネススキル」の取得も推奨しているが、別の職場に長くいた人には、人間関係や創意工夫などのスキルが求められるこれらの職種への展開は、年齢的にも困難だろう。

 外部コミュニティへの参加も意図は分かるが、メンバーが50代の似たような経歴の持ち主ばかりだと、刺激は少ないし、結局「名刺交換会」で終わってしまうことも多いのではないか。

 

 とまあ、「社内失業者」問題に関する分析は、普通はここで終わってしまうのだが、この記事は最後に「実践的かつ具体的」なアドバイスをしている。

 それは「今やっている目の前の決まりきったオペレーションを“少しだけ”変えてみる」ということだ。「社内メールの文章スタイルを変える」といった小さい変化の積み重ねが、やがてモチベーションを変える契機になる、というアドバイスは「社内失業者」にとって実行するためのハードルは低いので、とりあえず行動する価値はあると思う。

 

 記事を読んだ感想としては、社内失業者の立場で満足している人は別にして、不完全燃焼やモヤモヤといった感情に悩んでいる人は、「人生の後半戦をどうやって生き延びるか」といった大上段に構えて悩むよりも、「まずはできる範囲の一歩から」という気持ちで取り組んだ方が気は楽だし、時間はかかっても納得のいく「結論」が導き出せるような気がする。

日韓の対立問題は、年内に解決する――韓国の白旗で

 日本と韓国との関係が戦後最悪と言われて久しいが、この騒ぎも年内に収束すると思われる。それも「韓国の白旗」という形で。

 

 そもそもの問題の発端は徴用工訴訟だが、その後も韓国の嫌がらせが続き、堪忍袋の緒が切れた日本が、輸出管理の厳格化(輸出3品目の管理やホワイト国認定解除)を実行したというのが経緯。

 

 いままで日本には「何を言っても」「何を要求しても」問題ない、と考えてきた韓国の狼狽ぶりは明らかで、米国など国際社会にまで訴えてホワイト国認定の解除を回避しようとしたが、すでに遅きに失した。

 経済産業省が実施したパブリックコメントでは、意見の95%がホワイト国認定解除に賛成している。

 

 こうした流れに韓国は、「経済問題」から「軍事問題」へと、お得意の「テーマずらし」作戦を展開。軍事情報に関する包括的保全協定(GSOMIA)を俎上に上げて揺さぶりをかけてきた。

 

 結果として、米国の期間延長要請を袖にする形で、2019年8月23日、韓国が日韓GSOMIAを延長せず破棄を決定、11月23日午前0時に効力を失うこととなった。

 

 もっとも、北朝鮮内部の危険な軍事行動を察知する人工衛星の情報収集能力は、韓国よりも日本のほうがずっと高いようで、GSOMIAによるメリットは韓国の側の方が大きかった。

 

 その事実に気づいたのかどうかは分からないが、最近になって韓国は、韓国国防部の朴宰民(パク・ジェミン)次官が、「日本が貿易規制措置を再検討して撤回すれば政府も(GSOMIA終了の決定を)前向きに再検討することができる」などと、発言しているが、足元を見透かされていることには気づいていないようだ。

 

 ここで輸出管理問題に戻ると、今回韓国が新たに入ったグループBは「輸出管理レジーム」(原子力提供国グループ(NSG)、オーストラリアグループ(AG)、ミサイル技術管理レジーム(MTCR)、ワッセナー・アレンジメント(WA)の4つに参加し、一定要件を満たす国と定義されている。

 

 理由はよく分からないが、オーストラリアグループ(AW)にだけ加盟しているリトアニア、エストニアなどもグループBに属している。これは推測だが、日本との良好な交流関係などが評価されたのだろう。

 

 では、このグループBはその下のグループCと比べてどのような違いがあるのか気になるが、現実問題としては多少優遇される程度のようだ。実際、日本との貿易や交流がさかんな中国、台湾、シンガポールなど、他のアジア諸国はほとんどがこのグループCに属している。韓国がここに分類されても何らおかしくない。

 

 一方、国内問題に目を向けると、文在寅大統領は9月にも、「疑惑のタマネギ」とまで言われる法務部長官候補のチョ・グク氏の法相任命を強行する見通し。「疑惑が底なし」の人物だけにスキャンダル絡みで国内の政治的なリスクはさらに高まると予想される。

 

 経済事情も深刻だ。韓国産業通商資源部が9月1日に発表した8月の輸出入動向によると、輸出は前年比13.6%減少し、9カ月連続で前年割れとなったこと、また3カ月連続で2桁台のマイナスとなった、ことが明らかになった。

 

 主力の半導体市況や自動車の回復が見込み薄なほか、反日運動の高まりで日本への旅行者が激減、韓国の格安航空会社(LCC)は窮地に陥っている。少なくとも年内は回復の目途は立ちそうにない。仮に11月まで輸出の減少が続けば、その期間は1年に達する。産業界の我慢も限界が近づくはずだ。

 

 こうしたなか、今回の事の発端となった徴用工問題では、韓国の最高裁判所・大法院が2018年10月に日本企業(三菱重工業など)に対して賠償を命じる判決を出した。

 2019年7月16日に韓国国内の三菱重工業の資産をすでに差し押さえしており、それらの売却命令を裁判所に申請して現金化が行われる見込み。早ければ12月にも現金化は実現するだろう。

 

 日本政府は、韓国の元徴用工訴訟で敗訴した新日鉄住金の資産差し押さえ問題で、韓国に「企業に実害が生じた場合は対抗措置に踏み切らざるを得ない」と警告しており、「韓国企業の日本国内資産の凍結」などが予想されているが、効果が最も大きいのは「金融措置」だろう。

 韓国への送金停止や、韓国の輸出企業に邦銀が行っている信用供与を停止すれば、韓国経済は一発で撃沈されるはずだ。カウンターノックアクトである。

 

 あとこれは個人的な予想だが、GSOMIAが実際に破棄される11月23日にも、日本政府は何らかのアクションを起こすと思う。

 具体的には、先に述べたグループCへの格下げだ。現在日本は、GSOMIAをフランス、オーストラリア、イギリス、インド、イタリアの五カ国としか締結していない(NATOは除く)。

 

 インドを除くアジアの国々とはGSOMIAを締結していないのだから、「韓国との締結解除で友好関係がさらに弱まった」との判断から、11月23日当日に「第3段の対抗策」としてグループCへの格下げを発表する可能性はゼロではないと思う。

 同時に、メンツをつぶされて怒り心頭の米国のトランプ大統領も「在韓米軍の規模縮小」など何らかの対韓政策を打ち出す公算もある。

 

 加えて12月の徴用工判決に基づいた日本企業の資産現金化が実現した場合、「第4弾の対抗策」である金融制裁を発動すれば、韓国経済の息の根は止まる。韓国ウォン、株価の急落は不可避だろう。

 外国からは相手にされず、海外企業は資産・資金を逃避、経済の悪化と政治への不信で国民の支持率も急降下。完全に「詰んだ」状態となってお手上げ、というシナリオだ。

 

 以上が、日韓の対立問題は年内でカタが付くと考える根拠である。

 

 こうなると韓国は日本に対して「通貨スワップ」協定を要請するだろうが、日本はこれに対応する必要はまったくない。韓国の完全な「自業自得」だからだ。

 しかも想像するに要請するにしても「日本がスワップ協定を結びたいというなら韓国にも用意がある」とか「日本にはスワップ協定を締結する義務がある」などと上から目線で言ってくるのは目に見えている。

 

 世界の金融制度に影響が出かねない、というなら国際通貨基金(IMF)が主導権を持って対応すればいいだけの話である。

「理科系」強く、「女子大」は低調―――有名企業への就職率

最新!「有名企業への就職率が高い大学」TOP200(東洋経済オンライン)

安田 賢治 : 大学通信 常務取締役 情報調査・編集部ゼネラルマネージャー

 

 有名企業への就職では「理科系が圧倒的に強く、女子大は総じて低迷」という大卒の就職傾向をまとめた記事「最新!『有名企業への就職率が高い大学』TOP200」が、9月7日付けの東洋経済オンラインに掲載された。

 

 詳細は記事を読んで頂くとして、傾向を一言で言えば「理科系は強く、女子大は低調」といったところだろうか。

 

 記事では、「理系大学の強さが際立っており、トップ10では半数の5校を占める。総合大学でも早稲田大は理工系が3学部、大阪大も3学部あり定員は多い」としており、また、「トップ10以外でも、(中略)比較的規模の小さな理系大学も上位に入っている」としていおり、大学の規模や国公立・私立の区分なく理系は強い

 

 その理由は記事にもあるが、新技術などへの対応などで有利なのは当然として「例えばサービス分野でも、IT、AIの導入は当たり前」というように、必要とされる分野が急速に拡大したという事情がある。

 

 今後の傾向を想定してみると、AI、RPA、5Gなどの普及で理系へのさらに需要が高まるのは確実だが、文系学部でも理科系科目には関係ないとは言えなくなるはずだ。

 

 文系では最近は「商・経営」系の学部が就職に有利と言うことで人気化しているが、就職して業務に携われば、顧客や市場データの分析に必要な「統計分析」の知識は不可欠だし、ソフトウェアの重要度が増せば、業務を推進するうえでも「プログラムやシステム開発」担当者との意思の疎通ができなければ、話にならない。

 

 小学校でプログラミング授業が必修科目になったのは、文部科学省も理系科目の重要性に気づいたからだろう。高度なプログラム技術を全員が取得する必要はないし、現実には無理な話だが、プログラムという概念を理解するだけでも、仕事の幅は広がる

 

 こうして理科系大学や学部が人気化するのはいいのだが、問題は「学費の高さ」だろう。手元に資料がないので恐縮だが、文系に比べて年額数十万円は高いはずだ。しかも大学院への進学率が文系より圧倒的に高いので、さらにその差は広がる。実験などの研究施設が必要なので、仕方がないのではあるのだが。

 

 学費の無償化や奨学金の拡充などの動きはあるが、その対象は低所得者向けが主流で、両親ともに大卒以上で、共稼ぎ夫婦のような家庭にはあまり恩恵がないのが実態だ。

 

 日本が今後も「技術立国」を目指すのであれば、親の所得に関係なく、高校時代の成績や得意分野での実績などをもっと評価する仕組みを充実させてもいいはずだ。

 例えば、東京大学などでも推薦入学の選考では、高校時代の実績を評価して「全国レベルあるいは国際レベルのコンテストやコンク ール(例えば数学オリンピック)での入賞記録」(p18)などを基準にしているようだが、一般の大学がここまでハードルを高くする必要はないだろう。

 

 個人的には、入試の成績ではなく、工業高校や高専などで独創性のある技術を手掛けてるような進学志望者を、積極的に採用するような仕組みがあってもいいと思う。

 

婚活は「前向き」かつ「冷静」の姿勢で

詐欺まがいの婚活に疲れ果てた男性の一大転機(東洋経済オンライン)

大宮 冬洋 : ライター

 

 独身時代に散々女性からのネットワークビジネスに引っ掛かりそうにあり、婚活パーティーや結婚相談所を避けてきた50代の男性が、見事相性のいい伴侶を得たという喜ばしい結婚事例を紹介する記事「詐欺まがいの婚活に疲れ果てた男性の一大転機」が96日付けの東洋経済オンラインに掲載された。

 

 結論から言えば、「お互いにかなり運よく巡り合えた感が強い」ような感じがした。記事が話を「盛っている」とは思わないが。

 

 というのも、男性側は筆者が書いているように「朴訥」「のんびり」「お人よし」を絵にかいたような性格で、基本的に受け身の姿勢。人ががよさそうに見えるからネットビジネス狙いの女性のカモになりやすい。

 記事によれば、独身時代(20台前半?)から50歳近くまで5年に一回の周期で「勧誘」を受けてきたというから、少なくとも5~6回は「その手の女性」と付き合ったことになる。

 

 普通の感覚だと、一度もしくは二度会えば「ああ、またこのパターンね」となるはずなのだが、どうにも学習効果がないようだ。というか「受け身」が基本なので、こうなるのだろう。

 結果として、この受け身の姿勢が、民間の「まともな婚活市場」の回避につながり、長い独身時代が続いた。

 

 一方の女性は、逆に好きになった男性に対して「後先を考えずに結婚する」という過剰とも言える「積極性」が失敗につながった。

 

 今回再婚した男性がいうように「『なんでそんな男と結婚したのか』と思うほどの人物」のようで、相手の気持ちをまったく考慮しない男性だったらしい。

 まあ「若気の至り」と言ってしまえばそれまでだが、その積極性による失敗の反動で、今回の再婚にはやや慎重になった側面はあるようだ。

 

 このまったく異なる性格と過去を持つ二人を結びつけたのが、自治体の「婚活サポーター」制度だ。

 心れは、いわゆる市民のボランティアによる婚活支援、いわゆる「世話好きおばさんの仲人」なのだが、営利目的の民間の結婚相談所と異なり、現実からかけ離れた「要望」を受ける義務はないので、男女ともに分相応の相手を探すことになる。

 

 この仕組みが、「受け身」の男性と、「結婚に失敗」した女性を結びつけることになった。

 男性は、ネットビジネス勧誘のような疑念を持つことなく女性に接することができ、女性も安心して男性をしっかり見極めることができたからだ。

 

 女性の気持ちに配慮できるという「いい意味」での「お人よし」ぶりが、悪い方向に働いた「積極性」による結婚という苦い経験から、男性に警戒感を抱いていた女性の心を「解きほぐした」のは間違いないだろう。

 

 婚活というと、お金をかけてパーティーや紹介を繰り返すという手法になりがちだが、「身の丈に合った相手を客観的に探してもらう」という視点に立てば、自治体の「婚活サポーター」制度は利用価値がありそうだ。

 

 ちなみに東京都では、港区が「出会い応援プロジェクト」として、婚活イベントを年3回実施予定している(令和元年)ほか、非営利団体として「一般社団法人日本婚活支援協会」が同様のサービスを実施している模様。

 

 興味のある方は一度、問い合わせしてみてはいかがだろうか。

人財採用に「妥協は禁物」。常に「人材確保」の意識を

「採用してから育てる」がNGなこれだけの理由(東洋経済オンライン)

酒井 利昌 : アタックス・セールス・アソシエイツ 採用コンサルタント

 

 とある専門商社で即戦力のマネージャーを募集していたが、なかなか見つからない。焦っていたところに「これは」という人物が人材紹介会社から紹介され、トントン拍子で採用に至った。

 ところが、配属された部署の評価は散々。仕事は満足にできずに一年半で退職、指導したマネージャーも体調を崩すという、中途採用の失敗で想定外の「事故」に巻き込まれた会社の事例を紹介する記事「『採用してから育てる』がNGなこれだけの理由」が9月5日付けの東洋経済オンラインに掲載された。

 

 まあ採用担当としては、人材が必要な現場から「早く人を」と急かされるし、採用に手こずっていると自身の評価にも繋がるから、「焦る」気持ちは理解できる。

 

 特に会社が急成長して管理部門に手が足りなくなったり、キーパーソンが引き抜かれた場合などで起きがちで、自分の周りでもよく聞く話だ。

 

 記事では、この手の失敗の原因を「妥協して人を採用するため」としている。これは言われてみれば当たり前の話で、「人手」欲しさに「人物」の吟味ができないのだから問題が起きるのは必然である。

 

 今回は中規模の会社が1人のマネージャーを採用するという設定だったが、これは「大企業」の新卒採用でも同じような状況は起きている。

 これは採用担当の友人から聞いた話だが、どうも、一定期間内に数百人規模で学歴フィルターを使って採用すると、一定の確率で「はずれ」を引くのは不可避のようだ。

 

 記事もあるが、「育成しようにも本人の実力不足」というケースも多いのだろうが、大来業の場合は、「分不相応のプライド」が邪魔をして「自分のキャリアにふさわしいと思えない仕事」はまったく関与しないらしい。

 しかも、こういう話はすぐに他部門に伝わるので、人事部も別の配属先を決められない。結局「若年窓際族」になって辞めていくというのが常態化しているそうだ。傾向としては「高学歴」「意識高い系」に多いという。

 

 会社として「はずれの採用」をどう考えているのか聞いたのだが、「大量採用に伴うコスト」と割り切っているらしい。まあ大企業だから可能なのだろうが。

 

 いずれにせよ、どちらも「人手」の確保を最優先させた結果であることは間違いない。ようするに「妥協」で採用するから、採用する側も採用される側もお互いへの「理解不十分」のまま入社するため、その後実態がバレてお互いに不幸な結果を招くことになる。

 

 この問題の解決策は、記事にある「つねにいい人財はいないかと探し続けるのです。人手不足というマイナスの状態を±0にする採用でなく、±0からプラスにする採用を通年でやり続ける」というのが有効だろう。

 

 世間の採用傾向を見ていると、就職協定は形がい化して採用期間は伸びているし、「通年採用」の制度自体を廃止する会社も出てきた。

 

 また、大企業や経済団体も「終身雇用は維持できない」と宣言、採用する側は「必要な時期」に「必要な人材」を「必要な分だけ」採用するとう流れを強めるはず。

 一方、採用される側も「会社」の規模や知名度で選ぶよりも、「仕事」の内容など自分のスキルへ影響を優先する傾向が強まるのは間違いない。

 

 こうして大企業の人材採用傾向が変化すると、中途採用の人材市場にはこれまでに少なかった様々な人財が出回るようになる。これは冒頭のような中堅規模の企業にとっても「追い風」だろう。

 「追い込まれ型」採用から逃れることで、余裕をもって本当に必要な人材を見極める機会が増えるからだ。

 

 先にも書いたが、特に中規模以下の企業では採用にかかるコストは大きく、失敗は多大な損失を招く。

 これを回避するには、会社全体として「採用」への意識改革が必要だろう。これをけん引するのは経営トップの重要な役割だ。経営者自らが常にアンテナを張り巡らして、「いい人材を確保したい」という意識を持っていないと、採用の現場には伝わらない。

 

 経営という観点で考えてみれば、「製品開発」部門で、「常に一定の時期に自社のペースで研究・開発」で、などと呑気なことを言っていたらライバルとの競争に勝てる訳がない。

 適時、的確な判断と言う考えを「採用」の分野に展開するのは、ごく自然なことだとも言えるはずだ。

死に至る「関係性貧困」という状況の怖さ

「生活保護でも幸せ」を訴える33歳女性の半生(東洋経済オンライン)

中村 淳彦 : ノンフィクションライター

 

 買い物依存症で生活が破綻、自殺を思い立つが直前に何とか回避、その後支援する関係者の協力もあって、先の見える人生を踏み出す――というストーリーの記事「『生活保護でも幸せ』を訴える33歳女性の半生」が9月4日付けの東洋経済オンラインに掲載された。

 

 インタビュー対象の女性のこれまでの人生に厳しいものがあるのに同情はしたが、まず記事のなかで気づかされたのは、貧困は「経済的貧困」だけではない。人間関係を失う状態に陥る「関係性の貧困」がある。というおそらくあまり認知されていない事実だ。

 

 この人の場合、運よく「就労支援センター」「相談員」「生活支援センター」の担当者に恵まれて、健全な生活の「基本方針」が定まったことが奏功したが、このケースは全体でみれば少ないケースではないか。

 

 「経済的な貧困」だけであれば、要するに「おカネ」すなわち生活費の問題なので、ケースワーカーに相談したりや役所の担当部署に行けば、生活保護を中心とする対応策が見つけられる可能性はある。もっとも役所では「水際作戦」で追い返されることも多いようだが。

 

 これに対して「経済的な貧困」に加えて「関係性の貧困」が絡んでくると、生活が破綻、食事にありつけない状況に陥っても相談相手がいないので、いわゆる「セルフネグレクト(自己放任)」状態となり、「不衛生な環境で生活を続け、家族や周囲から孤立し、孤独死に至る」(コトバンク)となる可能性が高まる。

 

 最近では、連日のように高齢者の孤独死が報道されるが、こうしたケースのほとんどは「関係性の貧困」が影響していると思われる。

 特に、戸建てのように庭の木々が伸び放題で、敷地にゴミが散乱し、付近の住人が気づくことも多いだろうが、「密室」に近いマンションやアパートに居住している場合は、変化に気づきにくいので発見が遅れがちだろう。

 

 やや古い調査になるが、平成 22 年度に内閣府経済社会総合研究所が調査委託した「セルフネグレクト状態にある高齢者に関する調査」によれば、見守りを行うためのネットワーク整備を行っているかを尋ねたところ、「全地域で実施済み」の自治体は 26.4%に留まっている(p5)。早急な対応が必要なのは間違いないだろう。

 

 記事によれば、今回は結果として本人が「就労支援センターの方々に支援をされたことで、お金があろうとなかろうと、生きていればそれでいいのかな。そう思えるようになりました」という新たな見地に立てたことで、現在は先の見えつつある状況にあるようだ。

  本人が33歳とまだ若いことで、自分から「就労支援センターに電話する」ことができたことで救われた側面があるのは間違いない。その意味では不幸中の幸いではあった。問題はやはり認知症などの病気も抱え、一人では行動できない高齢者対策だと思う。

 

 もっとも、本記事で伝えたい最大のポイントは、冒頭の「関係性の貧困」からの回避策にはこういう事例もあるということだろう。

 とにかく、何らかの形でアプローチできるハードルの低い相談窓口を整備して、世間に周知させることを地道に行うのが解決策の一歩にはなるだろう。

  同じような立場にいる人々や関係者に、この記事が少しでも役に立てばと思う。

「医療」目的で訪日する中国人富裕層を逃す手はない

中国人の「医療ツーリズム」熱が高まるわけ(東洋経済オンライン)

若泉 もえな : 東洋経済 記者

 

    現在、日本を訪れる外国人環境客の数は増加する一方だが、なかでも増えているのが「中国人」だ。この中国人を含む観光客の主目的は当然ながら「観光」なのだろうが、こうした中で「医療」を目的に訪日する中国人が増えているとする記事「中国人の『医療ツーリズム』熱が高まるわけ」が9月3日付けの東洋経済オンラインに掲載された。
 
 記事は、血液の浄化や美肌効果などを目的とする「アンチエイジング」が目的で来日した50代の中国人女性の発言が紹介から始まる。
 
 確かに記事にあるように、外務省の統計では中国人向けの医療滞在ビザの発給件数は2015年から2018年にかけて1.6倍に増えている。
 これだけ読むと、医療を目的にした訪日だけが急増しているように受け取れるが、これには追加説明が必要だろう。
 
 日本政府観光局の訪日外客数(年表)によれば、中国人の訪日人数は2015年の499万人から、2018年に838万人まで増えており、その増加率は1.67倍である。つまり、医療目的の中国人が増えているのは事実だが、そのペース(記事では1.6倍)は訪日人数の伸びと変わらない。医療を目的にした人だけが急増したわけではないのである。
 
 統計を見ればすぐにわかることだが、一般人はそこまでデータの確認をしないだろうから、この記事の内容では誤解を招く可能性があることを指摘しておく。
 
 ただ、その後に続く「日本の医療滞在ビザを取得する外国人の中でも中国人の割合は高く、全体の8割を占める」という事実の方が、記事の意図をより反映した内容であることは間違いない。
 
 個人的には、中国人観光客というと、最初は「洗浄便座」「紙おむつ」などの爆買いに始まって、最近では個人旅行のリピーターが増えて、中国人観光客が知らない、行かないエリアを探して旅行する、という流れになってきたのは、知っていたが、高額の「医療」目的で来日するという旅行者が増えているというのは、意外だった。
 
 これは個人的な偏った見方なのだろうが、訪日外国人の医療というと、日本の健康保険が使えないうえ、旅行保険に加入しないで訪日する人も多いので、病院に行って治療してもらっても治療代を踏み倒す、というイメージが強かったので、逆の意味で興味深い内容だった。
 
 確かに「観光」目的の外国人は、京都や飛騨高山などではキャパシティを超えて訪れるため、地元民の生活環境を乱す「観光公害」とまで呼ばれるようになっており、世間の風向きは観光客の「誘致」から「管理」へと変わりつつある。
 この辺りの事情は「観光亡国論 (中公新書ラクレ)」に詳しく書かれているので、機会があれば読んでみてほしい。
 
 以上を踏まえると「観光」から「医療」へのシフトを狙うのは正しい選択肢のひとつかもしれない。
 中国人観光客は、東洋経済オンラインの過去の記事「中国人が山ほど金使う「日本観光」の残念な実情」にもあったが、富裕層は「1週間程度の滞在で、1人当たりの消費支出は平均200万~300万円にも達する」そうで、医療の質とサービスの高い日本のアンチエイジングにおカネを使ってもらえるなら、こんなありがたいことはない。
 
 しかも記事にあるように、現在は大都市圏の治療機関が主流だが、治療目的ならば「地方」の方が、コスト的にも有利だし、活性化にもつながる。中国人富裕層は「上海」など過密な都市部に住んでいるは可能性が高いはずなので「日本の田舎の良さ」をアピールすれば、結構人気は出るのではないか。
 
 問題は、治療目的で訪日する中国人を案内する「医療コーディネーター」の育成、管理だろう。大人数で大騒ぎして迷惑をかける一部の観光客と違って、医療目的の本人が問題を起こすことはないだろうが、治療に関する知識に乏しい在日中国人がコーディネーターとして仕事を受けて、これまた外国人の扱いに不慣れな医療施設と組んで、治療ミスなどを犯せば、一気に悪評が広まり、良心的な対応をしている治療機関まで影響を受けかねない。
 
 記事でも、JTBの社内で医療コーディネーター事業を展開する責任者のコメントとして「政府としても悪質な医療コーディネーターを取り締まるための枠組みを作る必要があるのではないか」との発言を紹介しているように、問題が表面化する前に対策を打つ必要はあるはずだ。
 
 日本の医療サービスを評価して、専門のビザまで取得して来日してくれる中国人富裕層という「優良顧客」を逃す手はない。

就職氷河期の就職支援は「官民」の複合政策で

俺たち「就職氷河期世代」1700万人を忘れるな(東洋経済オンライン)

田宮 寛之 : 東洋経済 記者

 

  バブル崩壊後の就職氷河期に正社員として就職できず、非正規雇用のまま40歳前後になった人たちへの「就職支援策」の具体例を紹介する記事「俺たち『就職氷河期世代』1700万人を忘れるな」が9月2日付けの東洋経済オンラインに掲載された。

 

 記事で紹介させてされているのは2つの組織で、ひとつは民間の「ジェイック」。もうひとつは公益財団法人が管轄する「東京しごとセンター」だ。

 ともに収縮支援という事業では同じ領域だが、大きな違いは、ジェイックが原則として30未満を対象にしているのに対して、東京しごとセンターはWebサイトによれば、、29歳以下、30~54歳までなど求職者に応じて6つのサービスがあること。

 

 政府が「正規雇用を3年間で30万人増やす」という方針が伝えられたのが今年6月。引きこもりを含めた100万人を対象にするということで、その規模が注目されたが、支援策の内容は、ハローワークの拡充や民間事業者への委託などというもので、具体的にどのような支援が行われるのかは、多くの人にとって理解が及ばなかったと思う。

 

 本記事では、前段でジェイック社の支援内容を詳細にわたって具体的に紹介している。

 セミナーは5日間で講師による「聴講」よりも自ら参加する「ワーク」が多いのが特徴で、4日目には自己PRのプレゼンなどを行う。

 印象的だったのは、冒頭の「あなたがもし社長だったら、30代の社会人未経験者を採用しますか?グループで5分間話し合ってください」という講師の発言。

 就職支援に対する個人的なイメージは、いかに自分の個性を内面から分析して、強み・弱みを認識したうえで、就職活動に臨むためのサポートというものだったが、この講師の真意は、「採用される自分ではなく、採用する企業側に立って考える」という点で、求職者の意識を変えされる効果があると思う。

 しかも、参加者同士が意見交換することで、自分では分からなかった問題点に気付くこともあるだろう。

 

 これを、採用する側の企業担当者に「どのような人を採用したいですか」というテーマで講義をしてもらっても、「社会人としてマナーをわきまえている人」「他者との協調性がある人」といったごく「常識の範囲内」かつ「実用性に乏しい」コメントしか期待できないだろう。

 

 また、このセミナーの参加料が無料と点にも注目したい。まあ、通常のヘッドハンティング企業も、採用側から仲介手数料を取るのでおかしくはないのだが。

 ただ、ヘッドハンティングの場合は、お互いの実績や要望などが事前にわかっているため、双方の考える年収と業務内容が一致すれば即採用となるケースが多いはずだが、非正規雇用者の場合はアピールできる実績に乏しいことが多いはずで、それをサポートする手間を考えると、それほど利益率はよくないようにも思える。当然ヘッドハンティングに比べて一件当たりの手数料も低いはずだし。

 

 ただ、同社のWebサイトを見ると、定着率は91.3%、一定期間内に退職した場合の返金制度、採用するまでは費用負担はゼロ、といった特徴をアピールしており、企業側が利用するためのハードルは低いように見える。

 もっとも、サイト中段にある「ジェイックで採るメリット」の一覧表は、他社との比較でやや自社の優位性を強調しすぎている感じがしないでもないが。

 

 一方の東京しごとセンターは、「就活エクスプレス」というジェイックと同様の支援事業のほか、「Jobトライ」という入社希望企業で15~20日間の実習を経たうえで、相互の納得のもとに就職するというプログラムや、2か月間の職務実習を経てよりじっくり就職を目指す「東京仕事塾」という制度もある。

 後者の2つには、受講者に1日当たり5000円の奨励金が支給されるというジェイック社との違いもある。

 ただ、東京しごとセンターの事業も、民間企業「パソナ」や「パーソルテンプスタッフ」が運営しており、純然たる公的支援というものではないことには留意すべきだろう。

 

 こうした民間企業が、非正規雇用者を対象にした事業を拡大し、正社員採用への支援を拡大していることは望ましいとは思うが、気になるのは運営を「政府・自治体が民間に委託している」という点だ。

 誤解を覚悟で言えば、人材紹介は「採用を実現させてなんぼの商売」であり、現在は精力的かつ良心的に事業を行っているにしても、今後同業他社の参入が相次げば、「マッチングありき」の風潮が強まる可能性は否定できないだろう。

 また政府・自治体による奨励金の求職者への支給や、雇用者側への受入準備金(1日6000円)や採用奨励金(10万円)が事業を支えている側面もあるはずで、この制度の変更次第では仲介事業者の姿勢が変わる可能性もある。

 

 加えて言えば、話は変わるが、正規社員と非正規社員の間にある待遇格差についても世の中は「同一賃金・同一労働」の方向に向かっており、これまでのように「何が何でも非正規から正規へ」という雇用者側の意識が変化していく可能性もある。

 

 個人的には、正規雇用への民間企業のノウハウを生かすのもいいが、「雇用」という厚生労働省の主幹業務を担う「ハローワーク」の大胆な意識改革と、業務拡充にも期待したい。

フリードの購入は来年以降のフルモデルチェンジ待ちが正解

 一昨日30日の昼過ぎにホンダから「NEW FREED 2019年10月18日デビュー!」というタイトルのメールマガジンが送られてきた。

 

 次に車を乗り換える際の現時点での最有力候補が「FREED+(フリード+)」なので、常にその動向を見守っていたのだが、ようやく今回のモデルチェンジョン概要が正式発表されたことになる。

 

 結論から言えば、「事前に予想していた範囲内のマイナーモデルチェンジで、買い替えるのは、来年に予定されているフルモデルチェンジを待ってからにする」だ。

 

 今回のモデルチェンジのポイントは、

  1. フロントグリルのデザインがメッシュになった
  2. バンパーのワイド感が高まった
  3. 安全装備HondaSensingに後方誤発進抑制機能が追加された
  4. クロスオーバー感を強めた「CROSSTAR(クロスター)」が追加設定
  5. 青系、オレンジ系の新色が追加

 以上の5点だ。内装に大きな変化はない模様。

 

 このうち、性能面では「後方誤発進抑制機能」はすでに軽のN-BOX、N-WGNにも搭載されているので目新しさはない。つまり今回のメインの変更点は、色を含めたデザインの修正でしかないのだ。

 

 最近のSUV人気に応える形で新たに設定された「クロススター」も、地味なルーフレールを追加し、前後のバンパーの一部をメッキ加飾したぐらいで、特に買い気をそそられる気はしない。

 

 ではなぜ、今回のモデルチェンジを見送って、次回のフルモデルチェンジまで待つべきかと言うと、

  1. ハイブリッド仕様が既に研究開発を中止したと伝えられるi-DCDのまま
  2. 安全装置Honda Sensingが最新の全車速追随型でない

 という致命的な欠点があるからだ。

 今回の変更点を見る限り、よくあるフルモデルチェンジ直前の小幅な変更で、販売のテコ入れを図る、というぐらいの「気合い」しか感じられない。

 

 まず1.のi-DCDだが、ホンダは10月の東京モーターショーで同じサイズのコンパクト車「フィット」をフルモデルチェンジし、ハイブリッド車に一段進化したi-MMDを採用することを明らかにしている。

 i-MMDになれば、日常走行の低中速走行をすべてモーターで走ることが可能になり、大幅な燃費の向上が可能になる。当然走行時の静粛性も高まる。エンジンは高速時のみ駆動することになる。

 

 同じ1.5Lクラスのフリードとフィットで、同じ10月のモデルチェンジ(フィットは発表)なのに、フリードは「古いハイブリッドシステムのまま」、フィットは「最新のシステムを採用」では、勝負にならない。

 

 次に2.のHonda Sensingだが、もはや前を走る車との間隔を検知して車速を自動で調整するオートクルーズコントロール(ACC)機能は、停車時(時速0kmまでの減速)にも対応する「全車速対応」が標準になりつつある。

 

 ホンダでも最近発売になった軽のN-WGNもそうだし、新しいフィットにも当然搭載されるだろう。ちなみに日産/三菱の最新の軽自動車(DAYZeKクロス)にも同様の機能は搭載されている。

 ちなみにフリードに搭載されているACCは、時速30Km以下では解除されてしまう。

 

 先にも書いたが、フリードも来年以降にはフルモデルチェンジして、フィットと同等の機能を装備することは間違いない。

 価格は高くなるだろうが、私のようなシニア層には安全総装備の充実度は最優先項目のひとつだ。

 

 どうしても今回のフリードのデザインが気に入ったので買いたい、という人以外は、次のフルモデルチェンジまで待つ方がよいと思う。

「大学名称の変更大作戦」は成功するか――「京都芸術大学」

 来年4月に京都市にある大学の名称変わることが注目を集めている。

 その名は「京都造形芸術大学」。変更後の名称は「京都芸術大学」だ。来年開学30周年を迎える新しい私立大学だ。すでに文部科学省に名称変更の認可も受けているらしい。

 

 何が話題になっているかというと、同じ京都市には「京都市立芸術大学」という1880年開設の日本で最も長い歴史を持つ芸術大学があるのだ。ちなみに略称は「京芸」もしくは「京都芸大」が一般的らしい。

 

 この2つの大学、ともに芸術系ではあるが、歴史、難易度、特徴などが全然異なるというか比較の対象にならないレベルなのだ。

 

 ちなみに京都市立芸術大学は、西日本の国公立の芸術系では最も難易度が高い。河合塾の入試難易予想ランキングでは、国立の東京芸術大学やお茶の水女子大学の一部の学部とほぼ同レベルだ。大学関係者の間では、芸術系では東の「東京芸大」、西の「京都芸大」とも呼ばれているらしい。

 

 一方、京都造形芸術大学は私立なので国公立とは難易度は単純に比較はできないが、同じ河合塾のランキングによれば、芸術学部の最も難易度の高い学科でも偏差値は42.5、マンガ学科に至っては35.0と最低ランクだ。

 

 京都造形芸術大学は、27日付けのWebサイトの「お知らせ」で、将来構想「グランドデザイン2030」を策定し、「芸術立国」の実現、「音楽」などへの領域拡充などを掲げ、日本最大規模の芸術大学として、京都から世界を目指す、としている。この政策の一環として大学名の変更が含まれているという仕掛けだ。

 

 まあ、私立大学がどのような目標を掲げようが基本的に自由ではあるが、現在の同大学の置かれた地位を見る客観的に見る限り、目標実現のための「大学名称変更」ではなく、まず最初に「大学名称の変更」があって、その理由付けのための「形だけの目標」にしか思えない。

 

 「お知らせ」の最後には、略称として「京芸」「京都芸大」は使用しない、としているが、名称変更後の学生が大学名を聞かれて、「市立ではない京都芸大です」とか「旧京都造形芸術大学です」などとわざわざ答えるだろうか。大学がいくら使用しないと言っても学生は、普通に「京都芸大です」と答えるだろう。決して間違っている訳ではないのだから。

 ちなみに現在の略称は「京造」「京都造形大」だそうだ。

 

 混乱を招くのは必然であることから、28日付けの産経デジタル「IZA」では「京都市立芸術大は『大きな混乱を招く』と反対している。同大の赤松玉女(たまめ)理事長は『中止再考をお願いしてきたが、聞き届けていただけず残念』とコメント。大学関係者は『当事者間で解決できなければ法的措置も検討している』とする」との見解を掲載している。

 

 同記事によれば、「京都市の門川大作市長も『驚愕(きょうがく)している』と問題視」しているそうだ。

 

 結論から言えば、あまりにも「稚拙」かつ「安易」かつ「姑息」な大学経営者の発想に基づく行動だと思う。誰が見ても、歴史と実績のある「京都市立芸術大学」という看板の威光を借りるだけの「コバンザメ」商法としか思えない。

 想像するに、少子化で将来の見通しが立たない最低ランクの大学が、世間の批判覚悟でイチかバチかの賭けに出たというのが実態だろう。

 

 確かに今回のように話題になるだけでも、名前に惹かれて来年受験・入学する学生は増えるかもしれない。

 ただいくら「芸術系」の大学だと言っても、その構想があまりにも「現実」からかけ離れているだけに、講義など教育レベルが一気に上がり、学生の実力も向上、大学の評価が急上昇することはないだろう。

 

 ちなみに東京にも、「東京」と「工」の両方の文字が入る大学は4つある。国立では、母体が明治7年設立の「東京農工大学」と、同14年設立の「東京工業大学」の2つ。農工大の工学部が元々繊維学部を改称したのに対して、東工大は工業教育機関を母体としている。

 

 私立では、「東京工科大学」と「東京工芸大学」の2つがあるが、工科大は日本で初のメディア学部を開設するなど新たな分野に進出する一方、工芸大はもともと写真の印画紙を手掛けた小西六(現コニカミノルタ)が設立した写真学校を母体にしており、専門は大きく異なる。

 

 というように、東京では大学名が似ていても専門分野が異なるので、大きな混乱を招くことは、ほとんどないと言っていい。

 

 恥も外聞も捨てて勝負に出た京都造形芸術大学の「大学名称変更大作戦」は成功するのだろうか。