如月五月の「ちょっと気になる話題、情報を斜め視線から」

ちょっと気になる話題、情報を斜め視線で解説

「好きなものを食べ」「毎日酒を飲む」という健康法

 

はつらつと老いる力

帯津 良一

2019年2月24日

 いやはや何ともすごい健康法があったものである。

 著者は東大医学部を卒業、82歳にして現役の医師なのだが、西洋医学⇒心理療法⇒ホリスティック医学と治
療方針を変えてきたことで、独自の診療方針を打ち立てたようだ。

 本書のテーマは「老い」なのだが、もっとも面白い内容は第一章「こころ」と第二章「いのち」にある「健
康法」だ。

 まずは「食事」。著者は、がんにならないための食事といった情報に流されずに「自分の胃袋が欲するもの
をしっかり食べることが、いちばん大事」(p68)と説く。この根拠になっているのが、「食べない方がいい
といわれている食品であっても、おおいなる喜びにときめいて食べれば、食材の不利を補ってあまりある」
(p45)という考え方だ。

 例を挙げれば白菜の漬物。著者は浅漬けに七味唐辛子を「山のようにかけて」おかずにするらしい。他にも
「塩で固めたシャケ」など”刺激物”が好みのようだ。

 次にすごいのが「酒」である。著者は「ほどよく飲めばはなはだ益がある」として毎日晩酌を欠かさないそ
うだ。養生法なのだから「休肝日などもってのほか」(p73)とまで言い切る。その結果γ-GTPは20年以上異
常値が続いているらしいが気にしていない。

 さらに驚くのは自身の経営する病院の入院患者にまで酒を勧めていること。個室病棟まで先生自らが酒瓶を
届けることまであるらしい。しかも「看護師さんに見つかると叱られるので、気づかれないように飲んでくだ
さいね」という丁寧なアドバイスまで付けて添えて。

 ここまでくると、酒が欠かせない入院患者にとっては「天国」のような病院かもしれないが、重要なのはこ
の治療法で「こころ」が元気になって「からだ」の不調まで取り戻すことができるのか、だろう。個人的には、
病状による痛みなど身体的な負担が大きく、何らかの精神的な拠り所が必要な患者には効果が見込めそうな気
がする。

 確かに、厳格な食事制限でストレスをため込んで「人生がちっとも楽しくない」という状態が続くよりは、
こころの健康にも配慮して「たまに理念を踏み外すぐらいがいい」(p48)という治療方針にも理解できる側
面はある。

 後半は「老い」「死」がテーマになるが、人生を達観しているのか、淡々と著者の考え方が紹介されている。
合点がいく内容が多いが、先に書いた「健康法」に比べればインパクトは弱かったというのが実感だ。
 
 高齢の現役医師が長い経験から導いた独自の健康法を知ることができる、というだけでも本書の価値はある
と思う。

マンションの買い手に問う。「将来のリスクを背負う覚悟はあるか」

 

負動産時代 マイナス価格となる家と土地

朝日新聞取材班

2019年2月23日

 都心ではタワー型を中心に分譲マンションに根強い需要があるが、本書はマンション

購入、賃貸アパート経営などで将来抱えることになる多大な不動産のリスクに警鐘を鳴

らしている。

 前書きにあるが、マンションを買えば支払うのは住宅ローンだけではない。管理費、

修繕積立金のほか、固定資産税、都市計画税もある。また、かなりの確率で二回目以降

の大規模修繕の一時金も徴収される可能性が高い。


 最近ではローンの超低金利に加え、共働きが増えたことで購入可能な物件価格が上

昇、夫婦の共同名義で購入する向きが多いようだが、3組に1組が離婚するとも言われ

る現状で、35年のローンを支払う自信と根拠がどこから来るのか理解に苦しむ。

 

 しかも、35年後の古びたマンションにどれほどの価値があるのだろうか。現在築35年

のマンションを見てほしい。設備、構造など今の新築物件とは比較にならないはずだ。

 ごく一部の利便性の高い物件は中古でもニーズはあるだろうが、大多数のマンション

は供給過剰でまともな値が付くとは思えない。「では建て替えを」となっても今度は全

世帯の同意を取り付けて解体、再建築するのは、高齢者を中心に個々の事情もあり極め

て困難だろう。


 まさに本書にあるように所有者が「身動きが取れない」窮地に陥るのは明らかなの

だ。

 こうなると老朽化の進んだマンションは危険だから「自治体が税金で解体などへの対

応すべき」という話になりがちなのだが、ちょっと待って欲しい。多数の住民が住んで

いるとはいえマンションは私有財産である。個人が所有する資産の処分に税金を使って

いいのかは大いに議論の余地があるだろう。


 集合住宅だから公共性があるというなら、アパートも対象になるのか、であれば二世

帯住宅はどうなのか、それなら戸建ても考慮されるべきでは、という論理展開になるの

が自然だろう。こうなると、もはや税金で「住居」を解体・処分というのは事実上不可

能な話となる。確かに戸建てについては空き家対策法が存在するが、これはあくまで解

体費用を一時的に自治体が「肩代わり」するもので、費用の請求は不動産の所有者に行

われる。
 
 とはいえ、治安や景観に悪影響を及ぼす廃墟マンションを放置するのも問題なのは事

実だ。解決策のひとつの例が、第五章にある「不動産を捨てられる国ドイツ」にある。

ドイツでは民法で「放棄の意思を表示すれば(不動産を)放棄できる」とあるそうだ。


 日本でも不動産を手放したい人の5割が費用を払ってもよいという調査結果(図表

6-1)があり、解体・整備費用の負担を条件に権利放棄を認める制度をいままで以上に

拡充する必要はあるだろう。

 

 私は宅建士の資格も持っているので、個人的に分譲マンションのアドバイスを求めら

れることも結構あるのだが、若い現役世代には新築・中古を問わずマンション購入を勧

めない。代わりに手ごろな賃貸物件に住んで貯蓄に努め、引退後に家族構成などのライ

フスタイルに合わせた住宅(戸建ても含む)の現金一括購入を推奨している。

 人生の最後まで「賃貸」でも別に構わないのだが、今後減額が確実視される年金を原

資に賃貸料を支払い続けるのは、さすがに厳しいのではないだろうか。

 

 人口・世帯数の減少する一方で、新規住宅建設は伸び率が鈍ることはあってもゼロに

はならない。しかも先述したように老朽化物件の解体も進まないので総住宅戸数は増え

るのは確実。要するに「需要」が減って「供給」が増えるのだから、どう考えても「価

格」は下がるとしか想定できない。言うまでもないが収益重視のいわゆる一丁目一番地

の投資物件は別の話である。


 具体的には、いまから数十年先には相当数の住宅を選り取り好みで、中古なら数百万

円程度で買える可能性が高いだろう。すでに都下でもバス便なら1000万円以下の中古物

件は珍しくないのが現状だ。


 仮に70歳で引退して(多分その頃は定年が70歳にはなっているはず)年金生活に入っ

て、築15年の物件を購入しても90歳(築35年)になるまでは建て替えの不安はないだろ

う。

 

 では、なぜこのオススメの「引退後の現金一括購入」を、不動産の業界関係者が誰も

話題にしないのかという疑問を持たれる方も多いと思う。


 その答えは「誰も儲からないから」だ。基本的に新規分譲マンションや中古物件を手

掛ける業者は、「すぐにでも契約して建設コストを回収もしくは売買手数料を確保」し

たいので、数十年も先の話などまったく眼中にないのである。

 この話が信じられないのであれば、新築マンションのモデルルームに行って、一通り

説明を聞いた後で「実は購入するのは2,3年先の話なんです」とでも話を振ってみれ

ばいい。まず間違いなく担当者の顔色が変わって、早々に話を切り上げようとするはず

だ。目先の利益につながらない相手は客どころか、迷惑な存在以外の何者でもないので

ある。

 

 私は、不動産関連の仕事をしている訳でもないし、業者から一銭も受け取っていない

ので、思っていることを何のしがらみも制約もなしに正直に書いている。不動産で稼い

でいないという意味では「プロ」ではないが、「プロ」が書きにくいことも正直に言え

るという立場にあるのは事実だ。

 

 今の時代、夫婦共稼ぎの収入、借り入れ金利の上昇、地震などの自然災害、病気・ケ

ガ、転勤、子供の進学、親の介護など将来何が起きるかわからないうえに不動産価格の

中長期的な下落は確実。住宅ローンという長期かつ多額の負債を自ら抱え込む必要はな

いと思うのだが。

 

 まあ最終的には個人の価値観の問題なので、これ以上はとやかく言いませんが。

  

 

読みやすく、分かりやすいが、やはり世界史は難しい

 

400字で読む あらすじ世界史

祝田 秀全

2019年1月13日

 1項目につき見開き2ページで400字、全250ページから構成される世界史入門書である。

 私はこれまで社会人として最低限の教養は持つべきとの考えから、様々な世界史の手引書を読もうとしてき
たが、どれも途中で挫折。完読した本は教科書を含めて一冊もないという正真正銘、筋金入りの世界史大の苦
手人間である。

 結論から言えば、初めて最後まで読めた世界史の本だが、これで「あらすじ」を理解できたかと言われると、
返答に困るというイメージだ。

 文章は平易だし、各章400字とコンパクトなので要点は掴みやすい。またポイントになるキーワードを、167
項目別建てで各200字程度で解説しているのも理解の手助けになる。

 という訳で、著者が初心者に相当配慮した内容・構成であるのは間違いない。のだが、読後に「なるほど、
そういうことだったのか」という合点になぜか少しも至らないのだ。こうしてレビューを書いてはいるが、印
象に残った記述の記憶が何もないのである。

 この原因を超世界史苦手人間なりに考えてみたのだが、まず簡潔とは言え「文章」だけで構成されていて、
「地図」がない(人物などのイラストはある)ので地理的な感覚がつかみにくいのと、400字のあらすじが、
さらに5分割されているので「箇条書き」のようでブツ切り感がある、ことが理由ではないかと感じた。

 本書は最後まで読めただけでも買った価値はあったと思うが、これで世界史への理解が深まったとか苦手意
識が弱まったとかは、とても言えないのが残念である。

 問題の本質が、自分自身の歴史への理解力のなさに起因しているのは重々承知しているのだが。

定年後の面白い生活には、定年前から自然体で準備を

 

定年前 50歳から始める「定活」

大江 英樹

2019年1月11日

「定年後」をテーマにした本は多いが、本書はその前段階の「定年前」の生き方をアドバイスする本である。

 著者が本書を通じて伝えたいことのベースには、「おわりに」に書かれている「『ねばならない論』と『べ
き論』を排除したい」(p219)という強い意図がある。

 長年サラリーマンとして自我を抑えて仕事に縛られてきたのだから、定年後は人それぞれ自由な生き方をす
べきという主張はもっともだろう。

 とは言え、これまで学校や会社など組織に「いったん抜けて新たに入る」ことの経験はあっても、定年とい
組織から「完全に抜け出る」ことは未経験なので、不安感が拭えないというのが実態ではないだろうか。

 この不安心理の解消に役立つのが、第1章の「定年後7つの勘違い」だ。この章では、「定年後の暮らしに
は1億円かかる」、「地域の人達との付き合いを大切にする」など各種メディアなどで紹介される定年後の生
活上の注意点の“間違い”を正している。
 
 また、老後のおカネをテーマにした第2章で参考になったのは、介護・医療費用で必要なのは800万円、定
年後は夫婦で月8万円稼げば十分、といった具体的な金額をデータを基にしっかり計算していること。

 著者は定年後の退職金の運用にやや否定的だが、株式やREITの配当金で年率4%程度の運用はさほど困難
ではない(あくまで現時点だが)。仮に1000万円を回せば年間収入は税引き後32万円で月額2万6000円強の収
入が見込める(正確には120万円分をNISA枠で運用すれば配当課税もされない)。こうなると仕事による収入
は日額5000円のアルバイトを月10日もやればいいレベルの話になる。

 こう考えれば、老後の生活資金にさほど悩む必要性は感じないで済むだろう。

 また、基本的な考えには賛成だがやや異論があるのが、第5章にある「勉強は資格を取るための『手段』に
するから面白くないので、それ自体『目的』にすれば楽しい」との指摘。

 まあ勉強自体、本人が楽しく取り組めればいいので他人がとやかく言う話ではないのだが、個人的には資格
という目標があった方がモチベーションも達成感もあると思う。

 ちなみに私が昨年取った資格には「フォークリフト運転士」と「メンタルヘルスマネジメント検定」がある
が、どちらも未知の分野で専門知識は身に付いたし、フォークリフトは運転自体が面白くていい体験だった。
仕事に役立つかは別問題だが。

 SNSについても一言。

 著者はフェイスブックなどSNSは、定年後の新たな居場所になるとして勧めているが、私自身はSNSは一
切やっていない。

 というのは著者もデメリットとして指摘しているが、不特定多数に向けて情報発信することで「手間」と「
雑音」に悩まされることになるからだ。

 発信した内容に、コメントが届けば何らかの対応を迫られるし、それが好意的な内容ならなおさらだ。
逆に、批判的・攻撃的なメッセージであれば心理的なダメージを多少なりとも受けることになる。

 音信不通だった旧友と連絡が取れたり、新たなネット上の知り合いが増えるというメリットを考慮しても、
差し引きではデメリットの可能性の方が大きいと思う。

 という訳で全体をまとめると、本書を読んで感じたのは、充実した定年後を送るには、定年前の準備を“多
面的”、かつ“前向き”に、そして“自然体”で進めるのが大事だということ。

 第1章と第2章を読んで、定年後のおカネの不安が解消すれば、あとは個々の望むライフスタイルの問題
である。第3章以降には、そのヒントが数多く紹介されており、多くの定年予備軍にとって参考になるのは確
かだろう。

不動産の選択基準は「街」になる

 

街間格差-オリンピック後に輝く街、くすむ街

牧野 知弘

2019年1月11日

 大手デベロッパー出身で東京の不動産市場に精通し、わかりやすい解説を個人的に高く評価している牧野氏
の最新刊である。

 今回のテーマは「街」。これまで東京23区の地域差は「行政区」や「駅」という視点が中心だったが、これ
からは「街」になるというのが著者の見解だ。

 この背景には、働き方改革の進展などで自宅や郊外オフィスなどでの勤務が普及し、職住接近という「通勤」
利便性の優先度が低くなることで、一日の大半を過ごす「街」の重要性が拡大するという見立てがある。

 周囲を見れば、自分や知り合いの会社でも在宅勤務はごく普通に認められるようになっているし、フレック
ス通勤はもはや当たり前だ。

 会社にとっても都心のオフィスに社員全員分の机を確保するのは無駄が多いし、ネット環境の充実で自宅で
の仕事も特に困ることはない。加えて通勤の解消で労使ともに時間の有効活用ができるし、通勤交通費の削減
にもなる。逆に目立ったデメリットは特にないはずだ(サボリをどう監視するかは別にして)。

 この結果、ブランド志向や投資需要に基づいた現在の都心の一部の人気地域(広尾、四谷など)を除けば、
相続ラッシュと農地の放出という供給拡大要因もあって不動産価格の下落は避けられない、という。

 ということで東京の不動産の先行きは総じて明るくはないのだが、今後「ライフスタイルなど自分自身を軸
にさまざまな角度から住む『街』を選ぶ」(p104)という人が増えてくれば、街の魅力度や特徴などで本書
のタイトル「街間格差」が広がるというのが著者の真意だ。

 この「街」を選ぶための具体的な解説が、第3章「街間格差」にある「ブランド住宅街に住む」「外国人街
に住む」などの街のカテゴリー別の説明と、第4章の「輝く街、くすむ街」にある23区の行政区分別の分析
だ。
 特に、23区については将来性の「ある街」「ない街」を具体名を挙げて解説しており、賛否両論はあろう
が、専門家の意見として参考になるのは間違いない。

 著者は「おわりに」で、これまで日本人は住まい選びで価格や通勤、ローンなど「家」のことしか考えてこ
なかったが、これからはより多くの生活時間を割くことになる「街」のことをもっと考えてもよいのではない
か、と提案している。

 駅の規模や利便性、商業施設などハード面の充実度に加えて、今後はコミュニティの活性度や住民意識の高
さなどソフト面の取り組みが不動産選択のカギのひとつになる可能性は高そうだ。
 
【追記】
 私自身、通勤の利便性から墨田区、江東区、江戸川区などに都合10年以上賃貸住まいをしたことがあるが、
この経験を踏まえて本書に書かれた23区の街分析について一言。

 まずは台東区。ここで「浅草に住むなら喧騒を避けて千束あたりがよさそう」としているが、ここは別名
「吉原」、全国屈指のソープランド密集地区である。その手の嗜好があれば話は別だが、常識的には住宅街と
しては不適格だろう。

 次に江東区。「おすすめは門前仲町」とあるが、昨年の東洋経済の調査によれば東京メトロ東西線の門前仲
町-木場間の混雑度は199%で全国トップである。この駅付近に住んだこともあるが、朝の通勤電車では利用
者の顔がドアの窓ガラスにへばり付いていつも見事に変形していた。もはや「痛勤」のレベルである。

日本の命運は「ポリテック」が握る。カギは住民の理解

 

日本進化論

落合 陽一

2019年1月10日

 ポリテックとは、政治(Politics)とテクノロジー(Technology)を組み合わせた造語だが、著者との対談の
なかで、小泉進次郎氏は「『テクノロジーによって何が可能になるか』といった観点を政治の議論に取り入れ
ていくこと」(p20)と定義している。

 具体的には、破壊的なスピードで進化するテクノロジーに、国、地方自治体など政治・行政の旧態依然とし
た仕組みが変化に対応できず、日本が本来持っている潜在成長を生かせていない、ことが問題だという現状認
識が前提にある。

 もっとも、新しいモノやサービスが出回ると、すでに似たような事業を展開している企業が反対するのは、
ここ数十年来日本で繰り返されてきたわけで、「既得権益組vs新規参入組」に限らず、「慣れ親しんだモノ
擁護派vs目新しいモノ推進派」、「現状維持大好きなシニア層vs常に新しさ志向する若者」といった対立
軸は、特段珍しい内容ではない。

 本書の特徴は、「テクノロジーを人間の外側で使うものではなく、身体につながった生態系」(p32)とし
てとらえるべきとし、「今テクノロジーでこんなことができるから、こんな制度の整備が必要」というメリッ
トを強調することで、抵抗派への説得、政策の実現を図ろうというスタンスにある。
 
 86ページに、財務官僚から茨城県つくば市に転身した副市長が、業務自動化ソフトの導入で業務の8割削減
を実現、今後の改革については民間の支援を受けて「予算ゼロ」での実現を目指している、という自治体の成
功例を紹介している。

 ただ個人的には、こうしたポリテックの推進には首長の強力なリーダーシップと、それを支持・応援する住
民勢力が一体化し、一部の抵抗勢力の自己中なワガガマを押し切る覚悟が必要不可欠だと考えている。

 特に地方の山間部や農村、漁村といった田舎では、地元の長老や有力者が実権を握っていて、何が何でも現
状の仕組みを踏襲することが大前提で「現状を変えなくては」という危機意識をまったく持たない、もしくは
絶対に持ちたくないという、変化を拒絶する地域がまだ大半のはずだ。

 例に挙げたつくば市は、政府主導で1960年代から大学誘致を契機に開発された新興地域で、古くからの地主
や有力者が少なかったという住民構成が、先進的な政策を受け入れやすかったという側面はあるだろう。

 本書では、テクノロジーの発展を前提に働き方、超高齢化、子育てなど多岐なテーマについて日本の将来の
課題と解決策を提示しているが、その実現に向けて最大の「問題」は、住民が地域社会の将来を「自分だけの
問題」ではなく、「コミュニティ全体」の問題として、冷静な大人の対応ができる住民が多数を占めているか
どうかになるだろう。

 そして、その住民にテクノロジー(Technology)主導の「ポリテック」政策によるメリットを丁寧に説き、
納得させるのは、まさに選挙で選ばれた議員である政治家(Politician)の仕事・責任であるはずだ。

 地域の将来は、政治家・自治体・住民の3者の「理解力」「想像力」「行動力」にかかっている。

 ポリテックの重要性と影響を、政治家と自治体、住民がしっかりした共通意識をもって取り組めば、その地
域の将来は期待できそうだが、逆に過去と現状に固執する地域には、相対的に暗い未来しかないという、明暗
がはっきりする地域の「現実」はすぐそこに迫っているような気がする。

「読書」は「体験」、「体験」は「人格形成」に影響する

 

読書する人だけがたどり着ける場所

齋藤 孝

2019年1月9日

 コミュニケーション論など専門とする大学教授の著者が、「読書」をテーマにその意味と価値を語る本で
ある。

 大学生が本を読まなくなった、いう話は割と聞くが、著者によれば「大学の先生も教養のための幅広い読書
をしなくなった」(p18)という印象があるそうだ。

 学生に学問を教える側がベースとなる本を読まないのでは、伝えられる知的水準もあまり期待できそうには
ない。

 大学という教育現場での事例を引き合いに出し、世の中に広まる「読書」離れの状況に危機感を持った著者
が、読書の重要性について様々な角度から解説している。
 
 本書には、読書のいろいろな効用(教養、思考力など)が書かれているが、その根っこにあるのは「読書」は
「体験」であり、「体験」は「人格形成」に影響する(p8)ということに集約できるだろう。
 
 実際に読書となると、一つのテーマや一人の作家について「深く」読み込む、もしくはジャンルを問わず
「広く」読み漁る、のどちらかになる傾向は少なからずあるだろうが、著者のオススメは「広く深く」だ。

 というのは、深さの要素には「つながり」があるので、「ある程度広さがないと深みに到達するのは難しく
なる」(p61)からだと説いている。

 個人的には、とにかく興味のある分野の本は何でも早く読みたい派なので、「深く」よりは「広く」を選択
してきたのだが、難解な本を最後まで読み切れば自信に繋がり、集中力も鍛えられる、という指摘には合意で
きる面もある。

 ちなみに私は、難解な本は平易な解説本で満足していたし、集中力も新書のノウハウ本で納得していたのだ
が、これは著者によれば本来の「読書」ではないらしい。

 また、本書にはいわゆる名著が「思考力を深める」などのテーマ別に40冊紹介されている。哲学、歴史など
分野は多彩だが、どの本にも「その本を読む意味や価値」を示す数行のコメントが付いているのがありがたい。

 私も含めて「難解な読書」から長く遠ざかっていた者には、とりあえず硬い本を選ぶためのいい羅針盤にな
ると思う。

 まずは「饗宴」(プラトン)あたりから読もうと思うが、どうしても「読みやすさ」から入ってしまう自分
が何とも不甲斐ないと感じる次第。

ポジティブに迎える「役職定年」のススメ

 

役職定年

河村 佳朗 , 竹内 三保子

2018年12月28日

 役職定年という言葉を聞くと、おそらく誰もが「給料の減少」「地位と権限の消失」などを連想し、仕事へ
の「モティベーションの低下」といったネガティブな思考になりがちだ。

 本書では、「役職定年をポジティブに捉え、その先の人生と時間をどう充実させていくかのポイントを伝え
る」(p3)ことを目的にしている。

 第1では、現在の役職定年制度の仕組みを解説し、第2章で役職定年後のマネー事情、第3章で役職定年後
から60歳の本定年までの会社生活の現実を解説している。

 すでに役職定年を迎えた人にも参考になる記述は多いが、主なターゲットとする読者は40代のミドル世代だ
ろうか。いざ役職定年となって慌てることのないように現状を知っておくのは意味があるだろう。

 本書で最も参考になったのは、第4章「再雇用以外の様々な道」。

 地方の中小企業への転職や、難関国家資格を目指すといういわば「定番」も紹介されているが、著者が勧め
ているのは「副業」だ。

 副業推進は「役職定年者にとって福音」(p116)だという。その理由は、仕事が軽くなり、自由な時間が
えるので、じっくり副業に取り組めて、セカンドキャリアをより具体的に検討できるから、としている。

 当然ながらここで気になるのが、会社が社員に「副業」を認めるのかどうか、だ。

 本書で引用されている調査結果では、1995年と2004年を比較すると「副業を禁止していない企業」は2ポ
イント減少する一方で、「副業を禁止している企業」は11.8ポイント増加したそうだ。2017年の別の調査でも
8割近い企業が禁止しているという。

 この結果を見る限り、現状では副業実現への道は厳しいと言わざるを得ないだろう。

 今後の行方のカギは、厚生労働省の定める「就業規則」にありそうだ。

 企業が就業規則を作る際に参考にする厚生労働省のひな型には、これまで「原則として副業を禁じる」と書
かれていたが、これが2018年から「副業を認める」という内容に変わったという(p118)。

 私の勤める会社でも副業は禁止されているが、その理由はおそらく世の中の大勢がまだ「禁止」だからだろ
う。とはいえ、近い将来、副業解禁の流れができれば、一気に社会全体が「解禁」に動き出す可能性は高い。

 少子高齢化による労働人口の減少、個人の会社存続リスクの分散志向、シニアのためのセカンドキャリア作
り、などのメリットが認知されるようになれば、著者の指摘するように「副業が一般的になるのは時間の問題」
なのかもしれない。

 その時になって慌てることのないように、事前準備だけはしっかりと進めておいた方がよさそうだ。本書は
役職定年を控えた普通のサラリーマンがその先の視野に入れている「定年後再雇用」という道以外にも、人生
には選択肢や可能性があることを教えてくれる。

幅広いジャンルをカバーした「情報の取扱説明書」

 

勝つための情報学 バーチャルからリアルへ

山村 明義

2018年12月27日

 本書の経歴によれば、金融業界誌や出版社などで情報収集・発信を35年間手掛けてきたジャーナリストであ
る著者の「情報学」である。

 読後の感想を言えば、長年の取材経験に基づいた「情報の取扱説明書」といった感じだろうか。

 全7章、225ページから構成されるが、第1章のテーマ「フェイクニュース」から始まり、「真の情報への
プローチ法」、「インテリジェンスとは」、「米中の情報戦略」などそのテーマは多岐に渡る。

 情報と言えば情報ではあるが、「陸軍中野学校」や「財務省」の情報史、さらに「暗号」の仕組みまで解説
している。

 また、本書の特徴として感じたのは、豊富な取材経験によって得たノウハウの一部を、印象的なキーワード
(6W2H1D、三角測量法など)を使って分かりやすく解説している点だ。

 その上で、本物の情報と偽物の情報を切り分ける重要性を説いているが、問題なのは「本物の情報のなかに、
見分けのつかない嘘の情報が混じっていること」(p63)という指摘は現実的で説得力がある。
 
 第7章で「情報の世界も『0』か『1』かという『二元論的対立』では解けないことが明確になってきた」
(p230)と解説しているように、今後の情報は「人的関係性」「多元的・多角的な価値観」で構成される可
能性が高まるのは確実だろう。

 こうした状況下で、戦後の左翼やリベラル的なマスメディアが言論を主導し、情報戦略面で世界に後れを取
ったのは「健全なナショナリズムの否定が最大の原因」(p234)との指摘は的を得ている。

 あとがきにある、本来の情報とは「善と悪」「右と左」などの対立軸を超え、創造的なものを生み出したり、
知的好奇心をくすぐる性質ものであるはず、という解説には誰もが納得できるのではないだろうか。

 タイトルは「勝つための情報学」だが、「真実を知るための情報学」でも良かったのではないかと思った。

パズル作家の書いた「頭の体操」、ビジネスの役には・・?

 

生き残れるビジネスマンになる21の思考実験

北村 良子

2018年12月27日

 パズル作家という異色の肩書を持つ著者が、ビジネスマン向けに「思考実験」という切り口で書いた本で
ある。

 取り上げる思考実験の例題には、「囚人のジレンマ」のように有名な内容も含まれるが、パズル作家だけに
問題提起とその解説が解妙な語り口と噛み合ってとても読みやすく、面白いと感じた。

 一日に1章を15分で読めば全7章を一週間で読めるとのメッセージが裏表紙にあるがが、特に読みにくい表
現などはないので、1冊を読むのに1時間もあれば十分だろう。

 ただし、この本の面白さはあくまで「一般常識への問いかけ」としてであり、著者が意図している「ビジネ
ス向けに役立つ思考のヒント」(p191)になるかと言えば、そこは微妙だろう。

 これまでの著作のタイトルを見ると「思考力」「発想力」「地頭力」などのキーワードが目立つが、具体的
な経歴の記載がないので確証はないものの、おそらく著者にはビジネスの実践経験(いわゆる会社勤め)の経
験はないと思われる。

 会社組織での実経験がないから「内容がいまひとつ」などと偉そうなことを言うつもりは毛頭ないが、ビジ
ネスの現場でキリキリ揉まれる人々にとっては、おそらく本書は「具体的なアドバイスになっていない」とい
った感想を持つのではなかろうか。一言で言えば「ツッコミ不足」なのである。

 タイトルにある「生き残れるビジネスマンになる」というのは、ちょっと誇大表現だろう。直接的には生き
残りのノウハウは書かれていない。

 逆に言えば、生真面目なビジネスの視点はとりあえず脇に置いて、パズルを解くような「頭の体操」を欲し
ている人には気軽に読める内容だと思う。

 おそらく著者の狙いもそこにあるのだとは思うが。