如月五月の「ちょっと気になる話題、情報を斜め視線から」

ちょっと気になる話題、情報を斜め視線で解説

ネット通販はヨドバシとAmazonで事足りる。税別価格表示の他社は論外

 いまだに税別表示を続ける家電量販店の愚策

 

 私はネット通販をけっこう頻繁に利用するのだが、定番のAmazon(プライム会員)に加え、ヨドバシカメラの運営するヨドバシ.comを使うことが多い。というかこの2社で大抵のことは事足りる。

 5月3日付けで雑誌プレジデントのネット版PRESIDENT Onlineに、「ペン1本でも無料で運ぶヨドバシの不思議」という面白い記事が出ていたので紹介したい。

 

 内容を要約すると、ネット通販を早い時期に始めたヨドバシカメラは、蓄積したノウハウ、自社配送網の整備などで競合他社よりも優位に立っている、ということだ。

 

 Amazonが書籍の通販から始めたのに対して、ヨドバシは家電から始まったという違いはあるが、現在はどちらも日用品や医薬品の販売も始めている。オリジナルブランドの存在もあって品ぞろえではまだAmazonが優位だが、PRESIDENT Onlineの記事にあるように、配送料が購入金額にかかわらず無料という点ではヨドバシに軍配が上がる。

 

 ただ、本文中に「ヨドバシを昔から利用している優良顧客は、(中略)競合他社と価格を比較しながら買うこともほとんどしないのではないだろうか」とあるが、これには異論がある。

 家電製品を例にとると、ネット通販歴15年以上の私の行動パターンは、とりあえず対象商品の最安値を「価格.com」で確認し、大差がなければAmazonかヨドバシで購入、というものだ。

 

 ちなみに家電に限らないのかもしれないが、この2社の価格は常に相手を意識して変動しているように見える。ヨドバシとAmazonのポイントを加味するとほぼ同じ価格というものが少なくない。つまり両社は価格でも激しいつばぜり合いをしており、それは顧客の行動パターンを意識しているからだろう。

 

 話は変わるが、私がヨドバシとAmazonを優先的に利用するのには大きな理由がある。

 それはどちらも消費税込みの価格表示を行っているという事実だ。ちなみに他の家電量販店のネット店を見ると、ヤマダ電機は税別、税込みの併記だが、文字自体は税別価格の方が大きい。ビックカメラに至っては税別表示のみである。

 そもそも消費税の価格表示については、消費税法第六十三条で「事業者は(中略)当該資産又は役務に係る消費税額及び地方消費税額の合計額に相当する額を含めた価格を表示しなければならない」と定められており、税込み表示が大原則なのである。

 とはいえ税率の変更による店の負担も大きいので、2021年3月までは特例として「税別表示」も認めるというだけの話なのだ。

 

 個人的には、この消費税の表示に対するショップの姿勢は、顧客優先か自社優先かというスタンスの違いを反映したものだと思っている。

 商品を購入する消費者にとっては「要するにいくら払えばいいの?」が最大の関心事であり、これが明確にわかる「税込価格」の方が圧倒的に便利なのだ。

 

 「税抜価格」を採用しているショップは、手間の問題もあるだろうが、それよりは「(見かけ上)1円でも他店より安く表示して客の関心を惹きたい」という浅はかな意図が見え隠れしている。

 顧客もバカではないので、自分で税額を計算してその結果を他店と比べる手間を考えたら、最初から「税込価格」の店で買うという流れになるのは確実なのだ。外税方式の販売店はそろそろいい加減に顧客を見下した表記を改めた方がいい。このままでは顧客にまったく相手にされなくなる。

 

 ちなみにAmazonとネット通販で双璧とされている楽天も、過去には「税別価格」ばかりだったが、最近は「税込価格」も増えており、まともな顧客志向に路線を変更しているようだ。

 

 いずれにせよ、「税込価格表示」「配送料無料」という2大戦略を看板に顧客志向を強めるヨドバシ.comの快進撃は今後も続くことは間違いないだろう。

 

人生訓メモの集大成、その価値判断は読者に委ねられた

不惑の老後(SB新書)

曽野綾子

 

 これはもう「書籍」というよりは、著者の人生訓メモの「寄せ集め」もしくは「集大成」と言った方が適切だろう。

 何しろ、項目として立っている見出しが207もあり、出典一覧も67冊に上る。便宜上、全六章に章立てしているものの、その中身は細切れのメッセージがほとんどである。


 具体例を引き合いに出すと、文章が何と1行しかないという項目すらあり、2行、3行の項目も少なくない。

 しかも各章に含まれる項目は順不同で、時系列順でもないし、何ら特別な関連性を見い出せない。文体も基本的に「である」調で占められているものの、「です・ます」調も混在している。

 

 出版社と著者がどのような意図でこの本を出版したのか、その真意は「まえがき」にも書かれていない(ちなみに「あとがき」はない)。
 というか、あえて数多くの著作から多彩なメッセージを引用し、散りばめることで、本書に対する解釈や意味づけを「読者に委ねている」としか考えられない仕掛けだ。


 従って読者は、自らの価値観と読解力が試されていることになる。解釈の手掛かりになるのは、タイトルにある「老後」と「不惑」の2つのキーワードだが、各項目を繋げては見たものの、その結果に「どれ程の意味があるのかは評価が難しい」というのが正直な感想だ。


 こういったスタイルを取る本が過去にどの程度出版されて、どのような評価を受けているかは知らない。ただ「仕掛け」としては面白いのかも知れないが、お手軽な材料だけ素のままで提供して、あとは「焼くなり煮るなり読者のご自由にどうぞ」というのは、いささか度が過ぎているような気もする。


 まあ本書をどう受け止めて、どう生かすかは個人差があるだろうが、同時期に出版された「人生の醍醐味 (扶桑社新書)」が、比較的読み応えのある内容だけに、本書との構成や意図の違いの大きさにやや戸惑っている。

 

「弱者」の立場を知る著者が語る「正論」

人生の醍醐味(扶桑社新書)

曽野 綾子

 読後の感想を一言で言えば、共感できる内容は多くとても参考になったが、タイトルや本書の帯に書かれた多数のコピーは「著者の伝えたい事とはあまり関係がない」だ。


 まず著者の主張について。
 本書を通じて著者が伝えたい事を集約すると「世界的に見てかなり恵まれた環境にあることを日本人は認識する必要がある。その上で自身の考え方や行動が正しいか常に意識すべき」といったところだろうか。
 
 この考え方の背景には、戦後の貧しい時代を体験し、発展途上国を中心に120カ国を貧困問題の調査で訪問したという経験がある。
 民族間の内戦により100日間で100万人が虐殺されたアフリカ・ルワンダの墓場で感じた強烈な「死臭」を、日本の若者に体験させれば「『自分は生まれながらの平和主義者だ』などという軽薄な信念も少しは揺らぐだろう」(p196)という主張には説得力がある。


 こうした原体験をもとに、著者は日本の現状を批判する「正論」を語るわけだが、その矛先は中国を擁護する左派マスコミ、必要以上に疑惑追及に傾注する野党、道義心を失った企業など多岐に渡る。


 特にマスコミに対して「(政府の)悪口を書いていればそれで充分批判的でいられるように思う浅はかな傾向は、書き手に力のない証拠」(p90)という指摘は強烈だ。


 また、急増する老人の介護環境整備が追い付かない現状を懸念し、「当節『平和』を口にする人は、デモに行く時間に、まず自分の身近の人たちの面倒を見るべき」(p143)と“身内の平和”を優先しろ、と批判している。


 個人的な考えを言えば、以上のすべての要因は「物事を多面的に捉え、自分の頭で考える人が減った」からだと思っている。


 人の欠点を論うことに終始し、マスコミの主張を鵜呑みにし、マニュアルに従って仕事をしていれば、これ以上「楽」な生き方はないだろう。一方、目の前にある現実の「背景」「意味」に思いが行かない人は、人間としての成長は見込めない。


 世間では、単純な事務作業などはAI(人工知能)に置き換わるという話題で持ちきりだが、これは同じ作業を任せるのに機械の方が安上がり、というコスト面だけの理由だけではない。成長の見込めない人間は「技術的に進化し続けるAI未満のレベル」でしか仕事ができないからだ。


 ここまで著者の主張とそれに対する個人的な見解を述べたが、以下は本書のタイトルなど外観的な側面について一言。 


 まずタイトルだが、著者が「まえがき」で書いているように、編集部主導で決まったもので本人は「人生の醍醐味など味わったことはない」としている。これを読んだ時点で本書への期待度が低下する読者も多いのではないだろうか。


 また表紙の中央、帯の最も大きい字で書かれた「『人生の成功者』になる秘訣」というのも、本書を読むと「えっ、そんなことなの」というのが実感だ。まあ、意表を突かれたという驚きは多少あったが。
 この秘訣で成功者になれると納得するには、まだ私が若輩すぎるという事情もあるのかもしれないが。
 
 以上をまとめると、本書はタイトルと帯に惹かれて読むとやや期待はずれかもしれないが、書かれている内容は、戦争、貧困を体験した年長者からの貴重な人生アドバイスだ。


 ただ私が懸念しているのは、この本を読む人は従来から自分の頭で考えることができる人が大半で、著者が読んでほしいと思っている人々にはおそらく「読書」という習慣がないということだ。


 かくして貴重な著者のメッセージが生かされない可能性が高いのは残念だが、現在の日本は人口も経済も下り坂の入り口にあるなかで、これに加えて日本人の精神的な衰退傾向も避けられないとなれば、日本の未来に明るい希望を持つことはかなり難しいと言わざるを得ない。

イヤホンは「話しかけ防止」に効果あり

 小学館『NEWS ポストセブン』が運営する動画ニュースサービス『News MagVi』で興味深いコンテンツがあったので紹介したい。

【動画】イヤホンは「話しかけないで」の意思表示なのか|NEWSポストセブン

 

 30秒程度の短い動画なのだが、要約すると「他人から話しかけられたくないときにイヤホンをかけていると、効果が大きい」ということ。

 動画では触れていないがこの行為について、「他人との壁を露骨に作り過ぎている」とか「見ていて拒絶されているようで不快」といった反論が出てくるのは容易に想像できる。

 

 個人的な意見を言えば時と場合によるが、この「イヤホンによる話しかけ防止策」には基本的に賛成である。

 私は勤務先の事情もあって、駅とオフィスの間を歩く際に外国人女性のマッサージ勧誘と思われる声掛けをされることが多かったのだが、ある日たまたま携帯音楽プレイヤーを聞きながら歩いていたら、誰からも声を掛けられなかった。

 向こうにすれば、勧誘しても相手にされそうにないので話し掛けの意欲が削がれるのだろう。以来、音楽を聴いていなくてもイヤホンを装着しているが、声を掛けられたことは一度もない。

 

 客引きという行為では「声掛け」と「断り」という無用、無駄な行為とそれに伴う手間と時間を考えれば、声を掛ける側・かけられる側の双方にとってイヤホンのメリットは大きいはずだ。

 

 他人がイヤホンに「壁」や「拒絶」を感じるというのは、おそらくまだ「意思表示」の方法として社会に認知されていないからで、一般社会に普及し始めれば一部のメガネやアクセサリーのように「ファッション」のひとつになると思う。

 

  まあ、コミュニケーションが不可欠な職場などでイヤホン(音楽を聴いていなくても)をするのは自己中心的過ぎるし、仕事に差し障りもあるだろうが。

 それでも職場によっては「声掛け」が、気持ちを集中して取り組んでいる人を、特に急ぎの用事でもないのに、自分の都合だけで無意識に声を掛けて中断させるという、いわば「不作法」とも言える行為であることを意識させる効果はイヤホンに十分期待できる。

 

 ただイヤホンを掛ける側が注意すべきは「音漏れ」。最近のイヤホンは「カナル型」といって耳栓のように耳に入れ込むタイプが主流なので音漏れは以前よりも減ってはいるが、それでも大音量で聞けば音は洩れる。

 イヤホンをして静かに音楽を聴いているのであれば構わないが、音漏れは他人への迷惑に直結する。自分も含めて音量には注意したい。 

【連休企画】大型連休期間中に自宅の地震対策を確認しよう!

確認したい地震対策のチェックポイント20

【連休企画】

 今月27日から5月6日まで10連休という人も多いと思いますが、旅行客の集中などで内外の観光スポットは、「混む」「待つ」「高い」が嫌いな私にとって「非常に苦手」な場所となります。

 

 これを回避するため当然ながら「旅行」「観光」などはしないのですが、今回の10連休は自宅でのんびりするには長すぎるのも確か。

 そこで我が家では、これを機会に「地震対策」状況を確認、必要に応じて見直すことにしました。


 過去に買い集めた防災グッズや飲食料はあるにはあるのですが、具体的に何がどこにあるのかは誰も把握していない状況。
 これでは「いざ地震!」となっても、必要なモノがすぐに使えない状態です。水や食料などは消費期限が来ているかもしれないし。
 
 ということで、以下に今回の防災対策再確認プランの対象となった事項を20個ほどピックアップしてみました。

【危険回避】
① ヘルメット・・・自宅の外で落下物によるケガをしないため人数分
② 軍手・・・・・・窓ガラスの破片などが飛び散る可能性があるので人数分
③ ガムテープ・・・割れた窓ガラスの一時的な補修やゴム袋の結索などで使用、10本
④ 照明・・・・・・夜間停電の際にLEDランタンを人数分+α
⑤ ラジオ・・・・・災害放送の受信用に予備と合わせて3つ
⑥ 電池・・・・・・照明、ラジオなどに使用、単一を100本、単三を50本

 

【飲料・食料】
⑦ 水・・・・・・・断水に備えて2Lペットボトル6本入りの箱を20箱
⑧ 食料・・・・・・カロリーメイト、レトルト食品を多数(賞味期限切れを確認)
⑨ カセットコンロ・ガス供給停止時に必要、レトルト食品の調理にも
⑩ ガスボンベ・・・カセットコンロ用に30本程度
⑪ 紙皿、紙コップ・陶磁器は割れて使えないかもしれないので各100個
⑫ ラップ・・・・・紙コップ、紙皿の再利用のため。ラップで包めば汚れない。20本

 

【トイレ】
⑬ 簡易トイレ・・・下水道が使えない場合、洋式トイレにセットして使う。100回分
⑭ ポリ袋・・・・・排泄物やゴミなどの処理に必須、サイズ大を100枚
⑮ トイレットペーパー・・普段の備蓄も含めて多めに確保

 

【その他】
⑯ 現金・・・・・・ATMの非稼働対応。1万円札はおつり対応不可の可能性があるの で、1000円札を100枚、10万円分(1束)を銀行窓口で調達
⑰ ガソリン・・・・出かける予定はないが、前回の東日本大震災では供給停止が長い期間続いたので連休前に満タンに
⑱ モバイル用バッテリー・・ガラケー、スマホやタブレットの充電用。20000mahクラスを5台
⑲ カセットコンロを使用する暖房器具・・冬場電気・ガスが停止した際に暖をとるのに必要、2台
⑳ 履き慣れたスニーカー・・外に出る際に、道路の破損や落下物などを避けて歩くため、人数分

 

 まあ、ざっと思いついたのはこのぐらいですが、家屋が倒壊したら多分命もないので、その時は諦めるとして、電気・ガス・上下水道が2週間止まっても自宅で過ごせるだけの物資を確保しておく予定です。

 あと細かいことですが、避難所への行き方や自治体の給水車の配置などについても確認しておきます。銀行は給料日の25日と連休直前の26日はすごい混雑が予想されるので、週前半に現金を確保したほうがよさそうです。

 ※ちなみに私は現金をみずほ銀行の窓口で調達しましたが、自分の口座から引き出したのに手数料324円を取られました。新札にこだわりがなければATMで1万円を10回、両替機能を使って毎回1000円札10枚で引き出せば手数料はかかりません)

 

 東日本大震災では、上記の備品のうち「単一電池」と「ガソリン」の品不足が続いた記憶があります。特に照明用などに多用する電池は多めに確保したほうがいいかと思います。

 最近の国内メーカー品は10年保管できるものも多いので、多めにあって困ることはないかと。ちなみに100円ショップの電池は保存期間や耐久性を考えると避けたいところ。1本あたりの価格はメーカー品とそんなに変わりません。安心料込と考えれば安いものです。


 私のお薦め品は「パナソニック エボルタNEO」。Amazonでも扱っていますが一回当たり3セットまでしか買えないうえ、家電量販店の方が安いこともあるので、比較して購入することを勧めます。

 

読む価値があるのは全182ページ中、第三章の36ページ

世界が変わる「視点」の見つけ方 未踏領域のデザイン戦略

佐藤 可士和

 

 何とも厳しい評価のタイトルだが、読後の感想はそのままである。
 
 当然ながら読み手の価値観は様々なので異論はあろうが、なぜ私がそう感じたかと言えば、第二章までの143ページ(全体の78%)は慶應義塾大学SFCでの授業、つまり本書の副題でもある「未踏領域のデザイン戦略」の解説だからだ。


 具体的には、授業の概要と進め方、学生の成果物、感想文、Q&A、同大学の准教授オオニシタクヤ氏との対談が主たる内容だ。

 この内容自体に意味がないとは言わないが、本書のタイトル「世界が変わる『視点』の見つけ方」から普通の人が想像するイメージとは異なるだろう。

 

 慶大SFCを目指す学生には勉強になるかもしれないが、働き盛りのビジネスマンにとっては仕事に直接役に立つとは考えにくい。もっとも学生の立場から学ぶ「デザイン戦略」の考え方は、人と仕事内容次第で参考になる側面はあるだろうが。

 

 以上の観点を逆に捉えると、第三章の36ページに本書のエッセンスは凝縮されているとも言える。

 

 メインテーマであるデザイン戦略について著者の言いたいことを集約すると、①問題解決のテーマである「課題」を決めて、②考え方の方向性である「コンセプト」を明確にし、③課題を解決する方策「ソリューション」を考える、である。

 

 具体例として”なるほど”と感じたのは、ビジネスの世界では③のソリューションから入ってしまうケースが多いということ。ポスターを作るためにデザインを発注する、有名タレントを供してCMを作れば消費者にアピールできる、などだ。

 

 言われてみれば、「結果」すなわち「アウトプット」ありきで、物事が進んでいく仕事は珍しくないという感覚は確かにある。
 ビジネスの世界は、売り上げや利益など「結果」が最優先される傾向が強いだけに、仕方がない部分はあるのだが、著者はこれでは「問題の本質」を捉えることができないと指摘する。
 
 実際に著者は、ライアントから「ロゴマークの相談や刷新」を依頼されたが、提案したのは「空間構築」だったり、「ロゴは変えないという結論」だったこともあったそうだ。

 

 確かに、「問題の本質」を再確認するというのは重要なことではあるのだが、ビジネスの現場では、上司や社内の理解を得やすいがためにコストパフォーマンス(あくまで見かけ上の)が優先され、「頭では非合理的だとわかっているけど結果優先を止められない」というのが実情ではないだろうか。

 

 この対策としては、会社のトップを含む経営陣を筆頭に全社的な意識改革が必要だと思う。権限と責任の所在という観点からも、現場の意思と判断だけでは対応できないはずだ。

 

 一見遠回りに見ても中長期的な視点で考えれば、問題の本質を解明することが、結果として最善策となるということへの会社全体の理解が、デザイン戦略を進める上では不可欠だと言える。

 

 この点からも、本書はデザイン戦略の現場だけでなく、マネジメント層も読んだ方がいいのではないだろうか。
 もっとも彼らは何かと多忙だとは思うので、実際に目を通すのは先述したように第三章の36ページ分だけで十分だとは思うが。

 

「正義」を語るときは「謙虚」も忘れずに

誰の味方でもありません

 古市 憲寿

 本書は週刊新潮に掲載中の同タイトルのエッセイを、雑誌に掲載された当時のまま新書にまとめた内容である。文末に後日談を補足しているが。
 従って、私を含めて新潮を購読している人には既読感はあるが、著者の立ち位置を改めて知るには役に立った。

 

 何かと発言が「炎上」することで話題となる著者だが、その行動の背景には、誰もが否定できない正論をかざす正義がまかり通るようになった結果、「人々の口が重くなり、当たり障りのない話題でごまかす」(p4)という社会が本当にいいのかという問題意識がある。

 

 また「正義」を振りかざすときには「謙虚」であることを意識すべきだとも述べている。その理由として、時代や環境が変われば「正しさ」は変わることを挙げている。

 

 要するに「自分が絶対正しい」と信じていることイコール「他人は間違っている」という認識になるという話なのだが、この考え方については私自身を含めて「自分の発言や行動に誤りの可能性があることを常に意識すべき」という点で大きな意味があると思う。

 

 あと、本書を読んで感じたのは、著者は感じたことや疑問に思っていることを私にはとても実践できないレベルで相手に質問していること。
 例として引き合いに出すと、著者は首相夫人である昭恵さんに「夫婦でセックスはするのか」という冷静に考えてみれば物凄い失礼とも思える質問をしている(p153)。もはや怖いものなしのレベルだ。
 これに対して昭恵夫人は、これまた具体的かつユーモアのある回答をしているのだが、その内容は本書で確認してほしい。
 


 まあ全体としては、若手の社会学者が世間に対して思うことをそのままぶつけた内容であって、それ以上でも以下でもない(元が週刊誌のエッセイなのだから当たり前)。
 著者の考え方についても同意できる内容もあれば、「ちょっとこれは」という部分もあった。

 

 ただ、何でもタブーなく自由に言えて、間違いがあっても修正すればいい。それくらい鷹揚でいられる人を増やすことが、実はいい社会を作っていくコツ(p6)という主張は、「正義」でギスギスしがちな現代社会において、ひとつの対応策ではないかとも思い始めている。
 

晴海フラッグ、見落としがちな2つの視点

話題の晴海フラッグを見てきた

 

 総分譲戸数4145戸というとてつもない規模の湾岸マンション「晴海フラッグ」の販売が5月に始まるというので、現地を見学してきた。

【工事の進むPARK VILLAGE側】

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 東京オリンピック選手村の再利用ということもあって話題を集めているが、物件に関する記事やコラムなどを読むと、警戒感や不透明感を持って受け止める声が多いように感じる。

 その根拠として挙げられているのが、①土地が破格値で払い下げられたので分譲価格もその分安く、周辺のマンション価格に影響する、②最寄りの勝どき駅まで最短でも徒歩17分、遠いと20分以上かかる、③通勤などの足として専用バス(BRT)が用意されるが運行に不安要素も―――などだ。

 このほかにも、入居予定が2023年3月からとかなり先な点なども不安要素(ローン金利は契約時ではなく融資実行時に決まるので)になっているらしい。

 

 とまあ以上のことは他のコラムやブログなどでも伝えられているので、ここでは晴海フラッグであまり注目されていなくて、見落としがちな点2つに絞ってみたい。

 

 まず、駅までのアクセスについて。徒歩20分前後というのはマンションとしては致命的な欠点なので、これを補うべく専用のバスシステム(BRT)が運行されるわけだが、終点の新橋まで予定通り10分で行けるかどうかは別にして、途中の勝どき駅までBRTに乗って、そこから都営地下鉄を利用することを想定している人に一言。

 

 それは、BRTは「勝どき駅」には止まらない(はず)ということ。バスの運行予定図を見ると、環二通りを出て左折し新橋に向かう路線図では、清澄通りとの交差点(勝どき陸橋)が勝どき駅の最寄りバス停となるはずだ。ここで降りると駅までは400m、徒歩で5分はかかる。信号やバスの乗降・待ち時間などを考慮すると、マンションから徒歩と時間はあまり変わらない可能性もある。


 おそらくバスを使う住民は、既存の都バス(都05-01系統:東京駅行き)を「ほっとプラザはるみ前」のバス停から乗るのではないだろうか。こちらだと「勝どき駅前」のバス停まで6分。7時台に11本、8時台にも12本運行している(あくまで現時点)。

【中心部に位置する「ほっとプラザはるみ前」バス停

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 ただ、そもそも論として50階建てのタワーマンションが2棟もあるのに、「バス便ってどうなの?」という疑問がどうにも拭えない。駅近で利便性が高いけど利用できる土地面積が狭いので、土地を「横」でなく「縦」に有効利用するというのがタワーの基本構想だと思うのだが。

 

 もうひとつの懸念事項は、中央清掃工場の存在。実際にゴミを目にすることはないだろうし、明確な定義はないものの不動産業界ではいわゆるゴミ処理施設が「嫌悪施設」のひとつになっていることは否定できない。

【晴海フラッグの面する環2通りから見た清掃工場】

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 道路を隔てて面しているのは賃貸物件と商業施設なので、分譲物件からは離れているが、晴海フラッグエリアから外に出る時には、その脇の道路を通らざるを得ない立地になっている。もっとも工場の周辺は、それこそゴミひとつ落ちていないという清潔感に溢れていることはこの目で確認している。


 あと、高さが177mもある工場の排気煙突も気になる。タワーマンションの最上階よりは低いかもしれないが、街のシンボル的な存在になることは間違いないだろう。

【中央に見えるのが煙突】

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 晴海フラッグ全体としては、道路幅は広いし公園も大きそうなのは評価できるが、各棟が想像以上に接近して建っているというイメージだった。個人的には、「湾岸エリアの新築マンションに住みたい」、「買い物など生活は地元で完結する」という条件がブレない人以外は慎重に検討した方がよいのではないかと思う。

 

【追記】
 晴海フラッグの南角にある「晴海客船ターミナル」は一度は見ておきたい建造物スポットだ。平成3年に完成した当時はその近未来的なデザインに感動したが、いまでも古さは感じない。解放感溢れる5階のレストランが休業してしまったのは残念だが。
 新ターミナルが完成する2020年以降には解体されるらしいので、それまでにぜひ一度見学されることをオススメする。

晴海客船ターミナル全景。この建物の向こうにレインボーブリッジが見える】

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根底にあるのは「信じる価値をどのように社会に認めてもらうか」という信念

1本5000円のレンコンがバカ売れする理由

野口 憲一  

 タイトルを見て「いわゆる価格戦略のマーケティング本ね」と思った人には「半分当たっている」と言っておく。


 というのも、もう半分の中身はまさに本書のテーマであるレンコンらしい「泥臭い試行錯誤の体験談」だからだ。

 

 マーケティング本というと、カタカナ言葉でテクニックを駆使し、スマートな戦略手法を解説するというイメージを個人的には持っている。もちろんこの本にもそういった商品戦略の内容も含まれるが、キモとなっているのは、まともな社会人経験もない民族学者が、先祖から引き継いだレンコン事業を1億円ビジネスに育て上げた過程である。

 

 500万円を投じて展示会に参加するもレンコンは1本も売れず、知名度アップのためテレビ局の意向に積極的に忖度して番組に協力、名前が知られ始めたところで同業の有名人とイベントを企画、やっとのことでビジネスの機運が見えてくる。


 目指すレンコン事業が成功したのは「安売りをしなかったから」と解説しているが、その根底にあるのは「信じる価値をどのように社会に認めてもらうか」という信念だろう。

 

 また本書で印象に残るのは、著者が進めようとする新たな販路開拓などを父親がことごとく否定、殴り合いに近いような罵倒合戦が何度も繰り広げられること。

 この部分だけ読むと、頭の固い頑固おやじが息子の仕事にケチをつけているだけに見えるが、実はこの親父さんこそレンコン栽培に促成栽培技術を真っ先に導入するなど根っからのレンコン農家で、「レンコン愛」に満ちているのである。

 

 著者が猪突猛進型で自分の信じたことを突き進むタイプであるのは容易にわかるが、親父譲りの性格が結果として「こだわりのレンコン事業」として成功要因になっているのは偶然ではないだろう。
 もっとも「品質は信用、数は力」という親父さんの言葉を支えにするというビジネスに対する冷静な側面も持ち合わせている。

 

 最近は、ドローンなどの新技術を積極的に取り入れる「スマート農業」がキーワードのひとつになっているが、著者はこういった生産性一辺倒の農業には否定的だ。

 余計な設備投資をしなくても利益を上げられ、なおかつ、時には汚れ、つらい仕事でもある「ありのままの農業」こそがスマートだ、という社会を作らなければいけない(p158)という言葉に著者の本音が凝縮されていると思う。

住宅情報誌SUUMOの縮小が止まらない。最近のマンション動向を反映?

 

 SUUMO新築マンション2019.4.16号

 

 駅ナカのスタンドに置かれている新築マンション情報のフリーペーパーSUUMOの掲載内容の縮小が止まらない。

 

 今年に入って週刊発行だったのが隔週刊に変更になったのだが、掲載される物件の数も減少、最新の4.16(東京市部・神奈川北西版)では掲載物件はインデックスで23件あるが、見開きで物件紹介があるのは20件に留まっている。

 私の記憶では一年ぐらい前は見開き物件数も50件以上は優にあり雑誌としての厚みもそこそこあってページは糊で綴じられていたのだが、現在はホッチキス留め。厚さは5mmもない。

 内容も劣化が著しい。例えばP30からの「共働き夫婦の買い時診断体験記」というコミックだが、これはほんの数か月前に掲載された内容とまったく同一である。

 

 対象が郊外なのでそもそも物件数が少ないという事情もあるだろうが、中央線沿線で現在販売中のタワーマンションなどの大型物件などの広告も掲載されていない状況から見ると、デベロッパーが広告を見合わせているのだろう。

 要するに竣工済みで売れ残った物件は広告を出しても売れないし、一部の人気物件は広告を出さなくてもそこそこ集客が見込めるので、あえて広告を打つ必要性がないのだろう。

 

 一度実店舗のスーモカウンターに行ったことがあるのだが、担当者から「モデルルームに行く際には、現地に到着してからでいいので電話で訪問する旨の連絡を下さい」と言われ、スーモを経由して物件を見るだけでデベロッパーから紹介料が入るのか、との印象を持ったことがある。

 これはいかにも「リクルート」らしいビジネスモデルと思う。その場ではスーモの担当者に確認していないが、事実だとすれば広告を出さなければこのコストも削減できる。

 

 マンションは価格の高騰で、一部の都心物件を除けば販売は伸び悩んでいる。価格の暴落を警戒するメディアなどの報道も増えている気がするし、特に郊外などは人気の落ち込みが激しいのかもしれない。

 

 SUUMOはフリーペーパーなので販売業者寄りの編集内容になるのは当然だが、ページ数や物件件数などの傾向などをデータとして客観的に見ることで、不動産市況の動向の一部を知ることができると思えば利用価値は大きいと思う。

 

 個人的には、この厳しい環境が続けば、隔週刊から月刊へ、そして遂には・・・という展開も否定できない気がする。

 

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